産業技術総合研究所(産総研)は,グリーン水素を安価に製造できる可能性を秘めた光触媒-電解ハイブリッドシステムの流通型装置を開発し,水分解の理論電解電圧(1.23V)よりも小さい0.9V以下の電解電圧で水素と酸素を分離製造できることを実証した(ニュースリリース)。
太陽光や風力などの再生可能エネルギーから製造されるグリーン水素は,脱炭素化への大きな貢献が期待されているが,主に電解で製造されるグリーン水素は他の手法より製造コストが高くなる。
今回,光触媒―電解ハイブリッドによる水分解に用いる電解セルには,通常の水分解によく利用されるPEMセルを選定した。また,光触媒反応に多くの太陽光を取り込むためには,簡単に大面積化できる反応槽を使うことが効果的。
さらに,光触媒反応で溶液中に生成するFe2+イオンを効率よく電解槽へ送り込む必要があるため,光触媒粉末をシート上に固定し,溶液のみを循環させる流通型の反応装置を開発した。この小型流通装置のPEMセルに0.9 Vの印加電圧をかけながら光触媒反応槽へ光照射を開始すると、水素生成に由来する電流が観測された。
次に,この光触媒シートを13倍程度に大型化し,水素および酸素ガスを水上置換で捕集した。ここではまず,光触媒シートに光照射のみを行ない,光触媒反応の速度をFe2+イオンの生成速度で評価した。
その結果,Fe2+イオンが効率よく生成し,それに対応する化学量論量の酸素ガスが発生した。この時の変換効率は0.31%と従来の懸濁状態での評価に匹敵する効率を得た。続いて光照射を停止し,200mAの定電流モードで電解反応を実施した結果,0.9Vよりも低い印加電圧で電流が流れ始め,消費された電気量に対応して化学量論量の水素が捕集できた。
ウォーターバスを用いて液温を35℃に制御した環境下で,10000µmolのFe3+イオンが含まれる鉄塩水溶液中に沈降させた光触媒へ疑似太陽光を照射した。日本の屋外太陽光照射の約7年分に相当する計10080時間の光照射実験の間,Fe2+イオン生成量が保たれており,劣化は見られなかった。
実際の太陽光を利用した野外実験では,電解と光触媒反応を同時駆動させた。その結果,試験当日の日射量の推移に応じて水素生成の電流値が観測された。また,投入電力はほぼ全て水素生成のために利用されていた。
研究グループは,今後は,光触媒の性能改善を目指し,長波長の光を有効利用できる光触媒反応の開発を進めるとしている。