京都大学の研究グループは,量子フーリエ変換赤外分光法では,その分解能が励起光源の帯域幅によって制限されず,高分解能測定が可能であることを理論的に明らかにし,検証実験に成功した(ニュースリリース)。
量子もつれ光を用いた量子赤外分光は,可視域の光源と検出器のみで赤外分光が可能で,装置の大幅な小型化・高感度化・低コスト化が期待される。
励起光源にパルスレーザーを用いることで,高速に変化する現象にも量子赤外分光が適用できるが,これまで量子赤外分光の分解能が,パルスレーザー光源の帯域幅によって制限されると考えられていた。
今回研究グループは,量子赤外分光法の一形態である量子フーリエ変換赤外分光法(QFTIR)の測定理論を,大きな線幅をもつ励起光を使用した場合に拡張したところ,波長分解能が励起光源の影響を受けず,量子干渉信号取得時の干渉経路の掃引距離によってのみ決定されることを見出した。
これを実証するため,微細なスペクトル構造を持つ試料を対象にQFTIR測定を行ない,狭線幅のCWレーザーとパルスレーザーを使用した場合の分光結果を比較した。
励起光源は,中心波長532nmのCWレーザーとパルスレーザーが切替え可能。可視励起光を非線形結晶へ入射することで可視光子と赤外光子の対である量子もつれ光が生成される。
セットアップの可視光子の波長は810nm,赤外光子の波長は1550nm。この量子もつれ光を,波長フィルターにより赤外光子と可視光子および励起光に分離し,それぞれ鏡で反射させ,再び非線形結晶へ入射する。
このとき量子干渉により,それらの2つの経路長に応じて発生する可視光子の量が増減する。QFTIR法では,赤外光子側の反射鏡の位置を変化させながら得られた干渉信号をフーリエ変換し,赤外域のスペクトルを算出する。
試料は表面反射した赤外光の干渉により,赤外域で波数3.5cm-1周期のフリンジ構造が現れる。量子干渉測定時の経路掃引距離は2cmに設定しており,分解能は掃引距離の逆数0.5cm-1となるため,フリンジ構造が明確に観測できた。一方で,帯域幅が21cm-1のパルスレーザーを用いた測定結果においても,CWレーザーと遜色の無いスペクトルが得られた。
次に非常に狭い線幅の吸収を持つアセチレン(C2H2)ガスの吸収スペクトルを分解能1cm-1で測定したところ,数値計算によるスペクトルの予想形状と非常に近い結果が,CW・パルスレーザー共に確認できた。
これらの結果は,理論予想と整合するもの。研究グループは,さまざまな基礎研究の進展や高度なセンシング技術の社会実装が期待されるとしている。