帝京大学,宇都宮大学,日本女子大学は,群体性緑藻フタヅノクンショウモの無性生殖に及ぼす光照射の影響を解析した(ニュースリリース)。
地球上には,多種多様な形態や生態を持つ微細藻類が数多く存在する。これら藻類の増殖は,光,温度,栄養塩,pHなどの様々な環境要因によって制御される。
特に,光は微細藻類の光合成反応や細胞分裂に影響を及ぼすことが知られているが,生活史全体をどのように制御しているかについては,まだ十分に解明されていない。このような背景の中,研究グループは,微細藻類の中でも特にユニークな生活史をもつフタヅノクンショウモの無性生殖サイクルに及ぼす光の影響とその役割を解析した。
研究グループは,まず,フタヅノクンショウモの無性生殖による群体増殖に光照射が不可欠であることを明らかにした。フタヅノクンショウモを暗所で異なる期間培養した後,明所に移して群体増殖を観察した。
その結果,どの培養条件においても,暗所での培養期間中および明所に移した1日後には群体増殖は見られず,2日目以降に群体増殖が確認された。フタヅノクンショウモの群体増殖が暗所では進行しないという結果から,種の無性生殖は光合成および光依存的な反応によって調節される可能性が示された。
そこで,光合成が群体増殖に及ぼす影響を解明するため,光合成反応を代替した条件下でフタヅノクンショウモを培養した。暗所で培養中のフタヅノクンショウモにグルコース(光合成で生成されるデンプンの構成糖)を添加した結果,無性生殖サイクルのうち,細胞の肥大化から遊走子形成まで進行し,電子顕微鏡観察では細胞内の隔壁や遊走子の鞭毛が確認された。
一方,この条件下では遊走子の放出や群体の増殖は見られなかった。したがって,フタヅノクンショウモの生活史には,光合成以外の光依存的なプロセスも含まれることが示唆された。
さらに,無性生殖サイクルの進行に関与する遺伝的要因を解明するため,群体増殖前後のフタヅノクンショウモを用いた遺伝子発現差解析を行なった。実験では,まだ群体が増殖しない光照射開始1日後(L1条件)の細胞と,群体が増殖した光照射開始2日後(L2条件)の細胞を比較した。
その結果,群体増殖前のL1条件でのみ,光合成関連遺伝子の有意な発現上昇が確認され,無性生殖サイクルの一部の過程が光合成によって駆動することが遺伝学的な視点からも明らかになった。
研究グループは,これらの成果は,フタヅノクンショウモだけでなく,他種の緑藻の無性生殖サイクル制御の解明につながると期待されるとしている。