東京薬科大学の研究グループは,シアノバクテリアにおいて主要栄養素であるリンの欠乏ストレス下,リンの利用効率が向上する新規のストレス順応応答を明らかにした(ニュースリリース)。
光合成微生物はリン酸塩等,安価な無機塩を栄養源とし,かつバイオマス生産性が高いため,経済的な有用物質生産への利用が期待される。しかし,リン酸塩の原料となるリン鉱石は採石が進み,近い将来,枯渇すると予測される。このため,光合成微生物の持続可能な産業利用にはリン(P)資源の効率的な活用が必要となっている。
研究グループは今回,シアノバクテリアの一種,Synechocystis sp. PCC 6803において,リン欠乏下での細胞生育中にrRNAが分解され,それにより遊離するリンが必須リン脂質等のリン化合物へと代謝変換される過程を発見した。
これは細胞のリン含量の低下をもたらす,つまりリン利用効率を高める新規のリン欠乏順応応答。一方,Synechocystisではポリリン酸合成酵素遺伝子(ppk1)が細胞のpolyP量だけでなく,全リン量の決定に関わることを発見した。
栄養十分条件下,ppk1の破壊により細胞ではpolyP以上に全リン量が大幅に低下し,リン利用効率が顕著に高まった.この場合,細胞の生育能は損傷しなかった。硫黄欠乏下,野生株の細胞ではpolyPが,そしてそれ以上に全リン量が大きく増加した。
つまり,リンの細胞内への取り込み・蓄積能が顕著に増強したが,これは主にppk1のはたらきによる。さらに,このppk1のはたらきは細胞の硫黄欠乏順応に重要だったという。
これにより,Synechocystis等の有用な光合成微生物にリン利用効率を向上させ,培養時のリンの投与量を制限する,またはリン取り込み能を向上させ,排水からリンを回収・資源化し,農作物栽培に利用する道が開かれる。
研究グループは,リン資源が世界で枯渇しつつある中,その効率的活用に基づく,持続可能な物質生産系の開発へと応用可能だとしている。