理化学研究所(理研)と中部大学は,光が新しい分裂組織の再生を制御する分子メカニズムを解明した(ニュースリリース)。
環境条件は植物の成長や発達に大きな影響を与えることはよく知られているが,これらの環境シグナルが傷害を受けた植物の再生にどのような影響を与えるのかは,まだ十分に解明されていなかった。
研究グループはまず,シロイヌナズナの胚軸再生における光シグナルの影響を,2段階の組織培養系を用いて調べた。その結果,胚軸の切断後に光強度を増加させるとシュートの再生が著しく促進され,光シグナルが新しいシュート分裂組織の運命を獲得するために必要であることが分かった。
続いて,光シグナルによって活性化されるマスターレギュレーターであるHY5に注目し,新しい器官形成におけるその機能を詳しく調査した。HY5の機能喪失変異体を用いた実験から,HY5が根の形成を抑制し,シュートの再生を促進する役割を担っていることが示唆された。
次に,HY5が介在する光シグナルがどのように器官再生を制御するか,その分子メカニズムを解明するために,野生型およびhy5-2変異株を用い,低照度および高照度光条件下でRNA次世代シーケンス解析(RNA-Seq)を行なった。
発現レベルに有意差が見られる遺伝子を解析した結果,光シグナルとHY5によって制御される遺伝子群を同定した。これらの解析から,HY5が根発生に関与する遺伝子の発現を抑制し,逆にシュート分裂組織に関与する遺伝子の発現を誘導することが示された。
さらに,HY5が根発生やシュート分裂組織に関与する遺伝子に直接作用するかどうかを検証するために,電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)およびクロマチン免疫沈降―リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(ChIP-qPCR)を実施した。
その結果,HY5がこれらの遺伝子プロモーター領域内の光応答性シス調節エレメントに直接結合することを見いだした。また,顕微鏡解析,生化学的および遺伝学的解析の結果,HY5が新しい分裂組織の運命を決定する際に,転写抑制と転写促進の二重機能を持つことが確認された。
最後に,HY5を介した光シグナルが光合成に関する遺伝子の発現を強く誘導し,培養初期段階から光合成を活性化させることも確認されたため,光合成阻害剤DCMUで処理した胚軸再生の表現型を評価した。この実験から,HY5に依存した光合成の活性化がシュートの再生に重要な役割を果たしていることも明らかになった。
研究グループは,今後は,シングルセルRNAシーケンス解析を用いて,光シグナルによって器官再生運命が決定される細胞群を特定するとしている。