台湾政府経済部と米SEMIは9月3日,シリコンフォトニクス技術の開発・応用を促進するため,産官学・研究機関と連携して「シリコンフォトニクス産業アライアンス」を設立したと発表した(ニュースリリース)
シリコンフォトニクスは,高速,高帯域幅,低エネルギー消費であることから,将来のデータセンターとデータ伝送のボトルネックを解決するための重要な技術の1つと見なされている。
また,AIにおいて懸念されるエネルギーの使用を低減できる可能性があることから,世界中で研究開発と産業化が進められている。
台湾はシリコン(半導体)産業において完結した産業チェーンを確立し,技術面で世界をリードしている。その知的財産はシリコンフォトニクス産業の発展の重要な基盤となることから,産,学,官が協力して「シリコンフォトニクス産業」同盟を推進し,シリコンフォトニクスのエコロジカルチェーンの構築を目指す。
式典に出席した半導体大手のTSMCやASEは,業界のコンセンサスをさらに集め、主要技術の開発と商業応用を推進することで,シリコンフォトニクス産業チェーンの繁栄と,台湾経済の新たな活力になることを目指す。
台湾経済部は今後も,研究開発と産業指導を通じて台湾の産業がシリコンフォトニクス分野で主導的地位を占め,国際舞台で重要なパートナーとなるよう促進していくとしている。
【解説】台湾政府がシリコンフォトニクスへの注力を表明しました。半導体界の巨人,TSMCを擁する台湾が本格的に取り組むことで,シリコンフォトニクスのさらなる実用化と普及の促進が期待されますが,一方で次世代産業を巡る国際間競争が激しさを増すことも間違いありません。
かつて日本が開発をリードし,産業としても世界を席巻してきた液晶ディスプレーは,台湾メーカーの台頭によって足元を崩され,今や完全と言ってもいいほど瓦解してしまいました。80年代にはこの世の春を謳歌していた半導体産業も,今やTSMCの力を借りる立場です。
月刊OPTRONICSでは2018年11月号,台湾の国立交通大学で教鞭をとる,元光化学協会会長の増原宏氏にインタビューを行なっていますが,氏が台湾の基礎研究の弱さを指摘するとこう言われたそうです。「オリジナリティがあってみんなが振り向くような研究は,日本かアメリカがやればいい。でもね,それが産業でも使えるかもしれないと思ったら我々が勝つからね」。
面積は九州ほど,人口も2300万人程度の台湾では,研究も産業も効率が重視されます。政府もそうですが,例えば鴻海の会長のような大富豪も,芽が出そうな産業への投資は惜しまない。こうしたカルチャーが,TSMCのような企業が生まれる土壌を醸成してきました。選択と集中は日本でも言われ続けてきましたが,ここも台湾に学ぶことが多そうです。(デジタルメディア編集長 杉島孝弘)