東北大学の研究グループは、高い力学特性と耐光性を有し,次世代LEDなどへの適用が期待できる非芳香族エポキシ樹脂に注目し,多角的な手法を連携してその分子構造と材料特性の相関を明らかにした(ニュースリリース)。
エポキシ樹脂は,その優れた接着性や耐環境性から,半導体製品やLEDの封止材として広く利用されているが,特に高輝度LED用には,従来の芳香族エポキシ樹脂が紫外線によって黄変しやすいという大きな問題があり,透明性が求められる用途には適していない。
この問題を解決するため,芳香環を含まない非芳香族エポキシ樹脂の開発が進められている。しかしながら,分子構造と材料特性の関連性についてはまだ十分に理解されておらず,開発は依然として実験的な試行錯誤に依存しているため,効率が悪い。
そこで研究グループは,日産化学が開発した非芳香族エポキシ樹脂「TEPIC」を対象に,その耐光性と力学特性を評価するため,先進的な量子化学計算と分子シミュレーションを組み合わせた手法を用いて研究を進めてきた。
まず,時間依存密度汎関数法(TDDFT)を用いて「TEPIC」の紫外可視吸収スペクトルを計算し,トリアジン環が紫外線による励起を効果的に抑制することで,高い耐光性を示すことを確認した。次に,「TEPIC」と硬化剤を反応させて得られた硬化樹脂の力学特性や内部構造を詳細に評価し,シミュレーションと実験結果が非常に高い精度で一致することを確認した。
特に,鎖長の違いが樹脂の強度と延性に及ぼす影響を詳しく解析した結果,短鎖の「TEPIC」では内部の不均一な構造がボイド形成を促進し,これが樹脂の破壊に寄与することが明らかになった。一方で,長鎖の「TEPIC」ではボイドの成長が抑制され,延性が向上することが示された。
この研究は,分子シミュレーションを活用した新たな材料開発手法がエポキシ樹脂の性能向上に大きく貢献する可能性を示しており,特にシミュレーションと実験を密接に連携させることで、材料特性を詳細かつ体系的に解明することができる点で画期的だという。
さらに,この手法は他の高分子材料の開発にも十分応用可能であり,特定の機能を持つ材料やバランスの取れた材料設計において,効率的かつ高度な開発が強く期待されるとする。
研究グループは,今回の研究成果は,今後のエポキシ樹脂の新たな応用や特性改善において,極めて重要な役割を果たし,さらなる研究と開発が推進されることが期待されるとしている。