北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の研究グループは,液体金属ナノ粒子を活用した新しいがん光免疫療法の開発に成功した(ニュースリリース)。
ガリウム・インジウム(Ga/In)合金からなる室温で液体の金属(液体金属)は,高い生体適合性と優れた物理化学的特性を有しており,ナノ粒子化した液体金属をバイオメディカル分野に応用する研究に注目が集まっている。
そこで研究グループは、液体金属をがん患部まで送り,免疫細胞を賦活化させるために,液体金属表面に免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-L1抗体),免疫調整薬(イミキミド),蛍光試薬(インドシアニングリーン),ポリエチレングリコール-リン脂質複合体を吸着させたナノ粒子の作製を試みた。
Ga/In液体金属,イミキミド,インドシアニングリーン,ポリエチレングリコール-リン脂質複合体の混合物に超音波照射後,抗PD-L1抗体を添加し,一晩培養するだけで,球状ナノ粒子の構造を水中で安定的に維持可能な簡便なナノ粒子を形成できることを見出した。
この方法で調製した液体金属ナノ粒子は,10日以上の粒径安定性を有していること,細胞に対し高い膜浸透性を有し毒性が無いこと,近赤外光照射により発熱が起こることが確認できたため,がん患部の可視化と治療効果について試験を行なった。
大腸がんを移植して1週間後のマウスに,液体金属ナノ粒子を投与し,24時間後に740~790nmの近赤外光を当てたところ,当該ナノ粒子がEPR効果によりがん組織に取り込まれていることが分かった。そこで,当該ナノ粒子が集積した患部に対して808nmの近赤外光を照射したところ,免疫賦活化と光熱変換による効果で14日後には,がんを完全に消失させることに成功した。
さらに,2種類の細胞[マウス大腸がん由来細胞(Colon-26),ヒト胎児肺由来正常線維芽細胞(MRC5)]を培養する培養液中に,液体金属ナノ粒子を,添加量を変えて投与・分散させ,24時間後に細胞内小器官であるミトコンドリアの活性を指標として細胞生存率を測定した結果,細胞生存率の低下は見られず,細胞毒性はなかった。
また,液体金属ナノ粒子をマウスの静脈から投与し,生体適合性を血液検査(1週間調査)と体重測定(約1ヵ月調査)により評価したが,いずれの項目でも液体金属ナノ粒子が生体に与える影響は極めて少ないことがわかった。
研究グループは,開発した液体金属ナノ粒子が,がん診断・免疫療法の基礎に成り得ることを示すだけでなく,ナノテクノロジー,光学,免疫学といった幅広い研究領域における材料設計の技術基盤として貢献することを期待させるとしている。