名古屋大学の研究グループは,薄膜内極細結晶粒を制御することによる金属原子の大量輸送の原理を発見し,原子拡散を活用したアルミニウムナノワイヤの大量森状成長手法を開発した。(ニュースリリース)
ウィスカとも呼ばれる1次元ナノ材料の一種である純金属ナノワイヤは,人髪の1000分の1ほどの小さな直径と数百マイクロメートルほどの長さを持つナノテクノロジーにおいて有望な材料の一つ。
特に基板に自立成長した欠陥の少ない単結晶純金属ナノワイヤは,次世代センシングデバイスとしてのガスセンサやバイオマーカー,次世代オプトエレクトロニクスとしてのプラズモン導波路への応用など,広範囲なマイクロ・ナノデバイスの構成材料として注目されており,その量産法の確立が急務となっている。しかし,原子の自己組織化で純金属ナノワイヤを大量に作り上げる技術が存在しなかった。
そこで研究グループは,固相中で原子を大量に運ぶ手段として固相中におけるナノスケール物質輸送現象である原子拡散を採用し,まるで森をつくるように大量のアルミニウムナノワイヤを希望した箇所に成長させる技術を確立した。
ポイントは,原子拡散の源である力(駆動力)を薄膜内部の結晶粒に着目して作り出したことにある。イオンビーム照射によって薄膜表層のみの結晶粒を粗粒化させ,薄膜表層では粗粒,薄膜下層では細粒となる粒勾配を作り出し,この粒勾配が原子拡散の駆動力を増大させる引き金になるという仕組みを有限要素解析による数値計算で明らかにした。
イオンビーム照射後に薄膜を加熱すると,原子はいくつかの過程を経て運搬されナノワイヤに成長するための準備段階に入る。まず,降伏応力の粒径依存性に由来して粒勾配が原子の上昇流を引き起こし,多くの原子を薄膜表面に運搬する。
その後,降伏応力の方位依存性に由来して特定粒に向かった原子の流れ込みが生じる。これらの原子の流れはいずれも静水圧応力勾配に基づいており,有限要素解析によってその値を算出することが可能となる。たくさんの原子をため込んだ粒は,それを解放するようにナノワイヤとして成長する。
原子拡散を用いて作られたアルミニウムナノワイヤの本数密度は最大180×105本/cm2を得る成果(表面被覆率0.51%)を実証した。またこの成果は,成長プロセスの仕組みを透過電子顕微鏡観察と有限要素解析による数値シミュレーションの併用で明らかにした。
研究グループは,原理的には他の金属にも拡張可能であり,これまで閉ざされてきた原子の自己組織化による金属ナノワイヤ製造技術の出発点になると期待されるとしている。