大阪大学は,次世代太陽電池開発の一連の研究(設計・評価・探索)を、人工知能による機械学習やロボットによるオートメーション化により迅速化した手法を開発した。(ニュースリリース)
現在実用化されているシリコンや無機太陽電池は,重量が大きい上に柔軟性に乏しく,また一部は毒性の高いカドミウムを使用しているという問題に加え,高効率化と低価格化は限界に達している。
これらを解決するため,有機太陽電池(organic photovoltaics: OPV)や日本発の技術であるペロブスカイト太陽電池(perovskite solar cell: PSC)が次世代光電変換デバイスとして期待されており,世界中で研究が進められている。
しかし,有機薄膜太陽電池の化学構造は非常に膨大で,材料の開発や評価に対して時間とコストがかかってしまう。また,環境に対する懸念から非鉛系の開発が行なわれているペロブスカイト太陽電池では多くの材料にパラメータがあるほか,元素の選択性もあるので未踏の領域が多かった。
また研究グループは,世界で唯一の太陽電池評価に特化した装置である,電材をブローブ分析項とした時間分解マイクロ波電動度測定法を開発しているが,作製した多数の太陽電池を手動で計測するのは時間とコストが必要という課題があった。
そこで今回研究グループは,実験スクリーニングに代わる方法として機械学習人工知能を採用した。この機械学習モデルを使って,バーチャルに20万種類の光分子を仮想探索した。予測効率が高いものから低いものまで,1位~20位の結果を得た。この結果をもとに太陽電池を作製したところ,予測値が11%のものについて,10%の変換効率を達成した。
さらに,時間分解マイクロ波電動度測定法を高速自動化にするために,世界で初めてオートメーション実験装置のロボットを開発した。サンプルをピックアップして,吸収発光,あるいは光学顕微鏡の測定を,白色光のパルスを用いて,一瞬で行なうことができる。これにより,1つのサンプルあたり約5分で測定できる。
現在は,このシステム等を使って次世代あるいは次々世代の太陽電池材料を探索する研究を行なっている。また,薄膜を自動で作る装置やポリマーを自動で合成する装置なども開発しているという。
研究グループは,効率的な研究開発のループを確立するとともに,DXと融合した研究手法を開発していき,次世代太陽電池の開発,また材料開発だけではなく,基礎科学的な発電メカニズムなどを解明することで,日本のプライオリティを示していくとしている。
【解説】これまで有機化学における材料探索は,藁の山から針を探すような苦労が伴うものでした。目指す性能を持つ材料を合成するため,勘と経験でこれぞと思う組成を片っ端から試していく山師的な側面があったのですが,ここにきて機械学習がその探索を大幅に合理化し,今では研究に欠かせないツールとなりつつあります。
今回の研究では機械学習に加えて「ロボット」による実験も実現しました。機械学習が生み出す膨大な数の材料候補のうち,期待値の高いものを実際に合成して太陽電池を作製し,研究グループが開発した装置を使って評価します。この作業を全て人手でやろうとすると,長時間の拘束とそれに伴う人件費が発生しますが,ロボットなら長時間でも深夜でも働いてくれます。
実はこれとよく似たコンセプトの装置を使って,産総研では人工光合成の研究を行なっています。ここでは試料作製もロボットが行なうことで,人が行なうより1桁以上早い材料探索が可能になったそうです(月刊OPTRONICS 2021年12月号掲載インタビュー)。機械学習×ロボット技術が,勘と経験の世界を変えつつあるのです。
バイオ分野では,研究でひたすら試薬を試料に投入し続ける「ピペド」(ピペット奴隷の略)と呼ばれる研究者(学生)の存在が問題視されていますが,この研究では薄膜を作る装置やポリマーを合成する装置などを開発することで,完全な自動化を目指しています。ともすれば単純作業の繰り返しになりがちな分野なだけに,そこから研究者を解放することが,研究の底上げになるはずです。(デジタルメディア編集長 杉島孝弘)