矢野経済研究所は,エネルギーハーベスティングデバイス世界市場を調査し,現状と今後の展望を明らかにした(ニュースリリース)。
エネルギーハーベスティングデバイスは我々の周囲における環境で発生する微小なエネルギーを「収穫(ハーベスティング)」し,電力エネルギーに変換する機器であり,電力確保の一手段である。発電方式は光や振動などが中心であるが,これ以外にも様々な方式が存在している。
直近では,IoT機器への電池交換の手間を省略する目的から,電池交換を必要としない電源として,エネルギーハーベスティングデバイスが注目されている。また,世界的に持続可能な社会を目指す動きのなかで,環境問題の観点からも環境負荷を低減できる電力源として,エネルギーハーベスティングデバイスは期待されているという。
2023年のエネルギーハーベスティングデバイス世界市場規模はメーカー出荷数量ベースで,13億742万5,000個と推計した。欧州におけるバッテリー規制や各国で進むガイドライン(規制)の導入でエネルギーハーベスティングデバイスの導入を可能とする環境整備が進展しているとしている。
こうしたなか,エネルギーハーベスティングデバイスの採用・導入実績は増えているものの,まだ普及していく余地は十二分に存在していることから,2024年には17億8,895万個を予測した。
この調査で注目した従来からの原理によるエネルギーハーベスティングデバイスはすでに市場投入されているが,一方で新しい発電方式が次々と開発されているという。
2023年には,電磁波ノイズによる発電デバイスが開発された。この開発品はチューナー開発で培われた技術が応用されており,電磁波ノイズから電力を高効率で生成することができる。
一例では,工場内のロボット,オフィス内のモニターや照明,店舗や家庭のモニターやテレビ,冷蔵庫などから常時発生する電磁波ノイズを利用し,低消費電力型のIoTセンサーや通信機器などの稼働に必要な電力の安定的な生成と供給を可能にする。今後増大するIoT機器の電源問題は徐々に顕在化しており,この問題を解決する手段の一つとして期待されているという。
また,2021年頃から販売が開始されている植物発電キットの新型が2023年に販売開始された。植物発電は新しい切り口のエネルギーハーベスティングデバイスとして市場展開されている。この植物発電キットの内容はマグネシウム板と備長炭,LEDライト,制御基板,ケーブルで構成されている。
設置する環境により電圧,電流値が異なるが1セットでの発電の電圧は0.7~1.2Vで昇圧後電圧は1.6~3V,電流0.1~20mAである。発電の仕組みとして,植物の根から発生する糖や微生物,水中の水草や微生物の循環作用から発生するエネルギーを効率よく電極に集め発電する技術だとしている。
電極を土や水に挿しておくだけで,日照不足でも植物が生育されている状態や水草や微生物が水槽中で生育されている状態であれば,土壌や水に電極を埋めるだけで発電する。環境への破壊の無い新しい自然エネルギーとして注目を集めているという。
将来展望については,2032年のエネルギーハーベスティングデバイス世界市場規模はメーカー出荷数量ベースで,153億4,240万個を予測した。欧州におけるバッテリー規制や各国で進むガイドライン(規制)などの環境整備が進展し,エネルギーハーベスティングデバイス導入に向けた実証実験なども実施されている。
国内においてもJSA規格として「環境発電デバイスを用いた学校向けIoTシステムの要求事項及びその開発指針」が2024年4月に設定されるなど,市場成長に追い風となるとみる。また,各構成素子(発電や制御,蓄電等)の性能向上からエネルギーハーベスティングデバイスそのものの性能向上がもたらされ,従来では導入が難しかった領域への採用が進むことが想定されるという。
こうした中,エネルギーハーベスティングデバイスは,維持管理を含めて安定運用できれば半永久的な電源となるシステムであり一次電池の交換が不要になることから,環境負荷を低減できるエネルギー機器として今後は様々な用途で導入され,活用されるものと考えるとしている。