千葉大学の研究グループは,希土類元素(レアアース)であるサマリウムを還元するため,青色の可視光を効率的に吸収する可視光アンテナを組み込んだ「可視光アンテナ配位子」を開発した(ニュースリリース)。
サマリウムは,有機合成化学分野において,主にヨウ化サマリウム(SmI2)の形で電子を一つ与える還元剤として利用されている。
ヨウ化サマリウムは室温で用いることができ,医薬品や生物活性分子などを作る上で有用だが,一般に原料と同じかそれ以上の試薬量を用いる必要があり,さらに反応後のサマリウムは廃棄されていた。
これまでに,反応後のサマリウムを還元し再生する研究が報告されているが,再生のために反応性の高い金属還元剤を用いる厳しい反応条件や,原料の10–20%の触媒量のサマリウム試薬が必要など課題があった。
そこで研究グループは,エネルギーの大きな可視光を効率的に吸収する可視光アンテナを組み込んだ配位子を新たに開発。サマリウム還元剤の使用量削減などを目指した。
研究グループは,サマリウム触媒と独自にデザインした可視光アンテナ配位子DPA-1を組み合わせることで,還元反応を検討した。その結果,原料に対して1%の触媒量のサマリウムとDPA-1を用いることで,青色光照射下,高い収率(98%)で生成物が得られることを見いだした。
さらに,従来は金属還元剤の代わりに,反応性が低く穏和な有機還元剤であるアミンを用いても反応が進行した。また,DPA-1と構造が類似しているDPA-2やDPAでは低い収率(30%,6%)にとどまった。
そこで,サマリウム触媒と可視光アンテナ配位子の発光強度を測定したところ,配位部位にホスフィンオキシド(P=O)を二つ持つDPA-1がサマリウムに対して強く配位していることが明らかになった。
これによりサマリウムは可視光アンテナの近傍に存在する確率が高くなるため,可視光アンテナからサマリウムへの効率的な電子移動(すなわちサマリウムの還元)が可能となったと考えられるという。
さらに研究グループは,サマリウム触媒とDPA-1による,医薬品開発や材料合成等に有用な分子変換反応を検討した。その結果,炭素–炭素結合の形成や切断を伴う多様な分子変換反応が進行することを見いだした。
また反応のエネルギー源として光を用いる利点を活かし,サマリウムによる還元反応と光酸化による酸化反応を組み合わせた分子変換反応も開発した。
研究グループは,従来法では困難であった分子変換技術の開発や,サマリウムの新たな反応性の発見につながる,創薬研究をはじめとした有機合成化学分野への貢献が期待できる成果だとしている。