北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)と東レリサーチセンターは,生きている細胞の微細な構造を解析する新しい方法を開発した(ニュースリリース)。
細胞の周りの環境(例えば浸透圧)が変わると,細胞の大きさが変わることはよく知られている。しかし,それだけでなく,細胞膜の張力や細胞内のタンパク質の集まり方も影響を受ける。このような変化は,新規モダリティ医薬品の開発や再生医療の分野で重要な知見となっている。
従来,細胞の微細構造の観察は電子顕微鏡や超解像蛍光顕微鏡によって行なわれてきた。しかし,電子顕微鏡では,煩雑な前処理や真空下での観察のため,生きたままの細胞の観察は難しく,また,蛍光顕微鏡では,解像度はサブμm程度であり,微細構造の観察が難しい場合がある。したがって,さまざまな環境で生きたまま,かつ,非常に小さなスケールで細胞の微細構造を観察する新しい方法が求められている。
これに対して研究グループは,大型放射光施設SPring-8のBL08B2ビームラインで,小角X線散乱を用いて細胞の微細構造の解析を行なった。その結果,細胞内のさまざまな構造からの信号が検出され,それらが環境の変化に敏感に反応していることがわかった。
例えば,タンパク質を作るリボソームは,低浸透圧(水分が多い)ではサイズが膨張するが,高浸透圧ではリボソームのサイズが収縮し,リボソーム間の距離が近づく様子が観察された。また,高浸透圧下では,細胞膜が折りたたまれてマルチラメラ構造を作ることや,タンパク質や核酸の凝集状態が変化することが明らかになった。これらの結果は,タンパク質の生成や放出に関連する現象と考えられる。
研究グループは,今回用いた小角X線散乱では,相分離構造を高感度で観測することができ,細胞生物学や再生医療の発展に貢献することが期待されるとしている。