早稲田大学,神戸陽子線センター,東北大学,大阪大学は,一般に市販されているポリエステル製の生地や衣類が放射線照射で発光することを発見した(ニュースリリース)。
放射線治療ではこれまで,患者の表面に照射された放射線領域のリアルタイム画像確認のために,放射線治療用高エネルギーX線照射で発生するチェレンコフ光を画像化する方法が試みられてきた。
しかし,陽子線治療ビームではチェレンコフ光がほとんど生成せず,リアルタイム画像化が困難だった。水や生体組織は,放射線に対して光を放出することが報告されているが,放出される光はごくわずかであり,観察には暗箱と超高感度カメラが必要で,観察に長い時間がかかった。
放射線で良く光るシンチレータを用いる方法も試みられているが,一般にシンチレータは固いため,平らな部分に配置する必要があった。
今回の研究では,患者体表面の複雑な形状に密着して配置可能なシンチレータ材料として,放射線照射で発光する生地と衣類を探索した。シンチレータ材料を探索する中で,木綿などは放射線照射で発光しなかったが,ポリエステル製の生地や衣類は,放射線照射で良く発光することが分かった。
さらに画像化実験により,ポリエステル製の衣類が,陽子線ビーム照射で発光し,リアルタイムに画像化できることを確認した。今回,生地や衣類の放射線による発光を探索するために,放射線の一種であるアルファ線を種々の生地切片に照射することで,基礎的な性能を評価した。
この探索により,ポリエステル製の衣類は,他の衣類,例えば綿などとは異なり,アルファ線照射により,プラスチックシンチレータ(代表的なシンチレータの一つ)の10%から20%もの強度で発光することが明らかになつた。
これらの結果をもとに,ポリエステル製のシャツなどをリアルタイム画像化実験の材料として選択し,陽子線照射中の発光画像を高速高感度カメラで計測した。その結果,部屋の電気を消した環境において,陽子線照射で発生する発光を,0.1秒間隔のリアルタイム画像として得ることに成功した。また得られた発光画像から,陽子線ビーム照射発光の積算画像も得られた。
研究グループは,ポリエステル製の生地や衣類は柔らかく,自在に曲がるので,放射線治療のみならず,放射線計測に関連した様々な分野への応用が期待されるとしている。