QSTら,レーザー光照射で高エネルギー電子線を発生

量子科学技術研究開発機構(QST),米カリフォルニア大学アーバイン校,カナダウォータールー大学は,細孔が多数開いたガラス板(マイクロチャンネルプレート)へのレーザー光照射により,放射線の一種である,高エネルギー電子線が発生することを実証した(ニュースリリース)。

放射線によるがん治療は,体に負担となる外科的手術を伴わないためQOLの高い治療として注目されているが,放射線を患部に届けるまでの被ばくは避けられない。また,加速器運転に伴う放射線発生や放射線源の取り扱いなどに留意する必要があり,装置価格の抑制や運用コストの低減も求められる。

現在のレーザープラズマ加速研究は,ピーク出力のより高いレーザー装置を用いて,より高いエネルギーの電子発生を目指すのが,世界的なトレンドになっている。しかし研究グループは,QSTで培ってきた技術をベースに,ピーク出力は高くないが非常に安定したレーザー装置を活用し,むしろ高効率で実用的な電子の加速を目指した。

研究グループは,カーボンナノチューブと呼ばれる,中空の炭素材料にレーザーを照射することを想定していたが,整列されたカーボンナノチューブは製造上の技術的課題が多く,実用化に向かない。

研究グループは,よりシンプルで市販されているマイクロチャンネルプレートと呼ばれる,ガラス板に髪の毛の1/10程度のサイズの穴が多数開いた材料においても,同等の効果が得られると考えて実験を行なった。

一般的に,高エネルギーの電子発生を目指す実験では,1平方cmあたりエクサワットという非常に高いレーザー強度で,ガスや固体などの材料に照射する。一方,研究グループは,1mm四方の中に10ミクロンの穴が約6000個空いているマイクロチャンネルプレートを材料として用いた。

それにより,レーザー強度を,フェムト秒レーザー加工で用いられるレーザー強度と同程度となる1/10から1/100に低下させても,がん治療を含む医療応用などに必要とされるエネルギーを持つ電子線が発生することがわかった。

さらに,光ファイバーの先端に微小なマイクロチャンネルプレートを固定した装置を作製し,内視鏡を利用して体内のがん組織に装置先端部を近づけることで放射線治療が可能となる。この装置では放射線発生が光ファイバー先端部に限定される。

研究グループは,既存の放射線がん治療において問題とされる被ばく線量の低減が可能であり,かつ放射線の遮蔽設備を無くすことで低コストのがん治療装置が構成できるものとしている。

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