原研ら,水に溶けたラジウムを分子レベルで観測

日本原子力研究開発機構(原研),大阪大学,東京大学は,水溶液中にイオンとして溶けたラジウム(ラジウムイオン:Ra2+)と,その周辺に存在する水分子の構造(水和構造)について,分子レベルの観測に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

放射性元素であるラジウムは,ラジウムと同族元素のカルシウムが形成する骨にラジウムが集まる性質を活かし,骨に転移したがんを放射線で治療する薬に使われている。また,ラジウムはウランなどの壊変により生成されるため,鉱物の放射年代測定に利用される。

一方で,シェールガスなどの地下資源の掘削時に環境を汚染する可能性が指摘されているため,ラジウムの化学的性質の解明は急務となっている。しかし,ラジウム自体が強い放射能を持つだけでなく,ラジウムの壊変により気体の放射性元素ラドンが生成し,内部被ばくの危険性が高まる。これらの危険性から,高濃度ラジウムを必要とする分子レベルの実験はこれまで実施できず,発見から100年以上経ってもラジウムの化学的性質は未解明だった。

研究では,ラドンの漏洩を防ぐ測定容器を開発し,高濃度ラジウム試料を安全に作製・運搬・測定する手法を確立した。さらにSPring-8を用い,広域X線吸収微細構造(Extended X-ray Absorption Fine Structure:EXAFS)法を用いて水に溶けたRa2+(水和Ra2+)の分子レベル構造を測定した。

EXAFS法は,X線をRa2+に当ててX線の吸収の様子を測定することで,分子レベルの構造を測定する手法。Ra2+によるX線の吸収の様子はRa2+の周囲に存在する水分子の配置の影響を強く受けるため,X線の吸収の様子を詳細に調べることでRa2+の水和構造がわかる。

また,スーパーコンピューターを用いて高精度なシミュレーションを行ない,実験結果を再現した上で,Ra2+は同族元素よりも周辺の水分子を束縛する力が弱く,水和構造が変化しやすいことも明らかにした。これらの結果から,Ra2+は同族元素と比べて,水から離れ生体内や環境中に取り込まれやすいことが示唆された。

この研究により,放射光実験とシミュレーションによるラジウムの分子レベルの化学研究手法を確立した。研究グループは今後,この手法を基により複雑な化学反応の研究に応用することで,がん治療薬の作用機序解明や新薬開発,土壌の年代推定法の精緻化,環境問題の解決等,社会的に重要な課題の解決へ繋がることが期待されるとしている。

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