立教大ら,赤色光から青色光へ20%超のUCを実現

立教大学と静岡大学は,吸収した光エネルギーを保持する役割を担う有機配位子(三重項媒介配位子)でAu2Cu6(S-Adm)6構造体を修飾した金属クラスターの増感剤Au2Cu6(S-Adm)6[P(DPA)3]2を開発し,地表での標準的な太陽光照度で効率20%を超える赤色光から青色光への光エネルギー変換(フォトンアップコンバージョン)を実現した(ニュースリリース)。

三重項−三重項消滅(TTA)に基づくフォトンアップコンバージョン(TTA-UC)は,長波長の光を短波長の光に変換する手法として注目されている。

TTA-UC機構は,発光体2分子間のTTAに基づく2光子過程であるため,最大効率(ΦUC)は50%。高効率化の向上には,増感剤における三重項生成量子収率(ΦT),増感剤と発光体との間のTET量子収率(ΦTET),発光体のTTA量子収率(ΦTTA)が鍵となる。今回,100%のΦTとΦTETを達成するため,Au2Cu6(S-Adm)6[P(DPA)3]2を新たな増感剤として開発した。

TET過程の速度定数は,配位子による金属コア(M)の励起三重項状態(3M*)の遮蔽の程度に強く依存する。トリフェニルホスフィン(PPh3)と嵩高い1-アダマンタンチオラート(S-Adm)で保護されたAu2Cu6(S-Adm)6(PPh3)2では,これらの配位子によるAu2Cu6コア部位の立体的・電子的保護によって高い安定性を示すが,そのために分子間過程であるTETが強く抑制されるという問題があった。

これを解決するために,三重項媒介配位子(TL)としてホスフィン誘導体P(DPA)3を新たに設計・合成し,それらをPPh3配位子の代わりに導入したAu2Cu6(S-Adm)6[P(DPA)3]2を開発した。

このクラスターでは,Au2Cu6コア(M)が赤色光(640nm)を吸収すると,この部位とP(DPA)3部位の間に電荷移動が誘起され,この電荷分離状態 (M+-TL)* を介してP(DPA)3部位に三重項エネルギーが高速に移動し,長寿命(150μs)な三重項TL状態(M-3TL*)が100%の効率で生成することが明らかとなった。

また,Au2Cu6(S-Adm)6[P(DPA)3]2増感剤とDPA発光体(E)を混合した脱気溶液において,赤色光(640nm)から青色光(433nm)へのUCでは世界最高レベルの効率となるΦUC=20.7%(閾強度Ith=0.036Wcm‐2)を得た。この系では地表での標準的な太陽光照度(1sun)でも変換効率20%の実現を確認した。

研究グループは,この新しい増感剤が,太陽光をはじめとする光エネルギーの有効利用に貢献することが期待されるとしている。

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