東北大学の研究グループは,代表的なワイル磁性体であるコバルト・マンガン・ガリウムホイスラー合金から発生する光誘起テラヘルツ波を観測し,典型的な磁性体からの発生と比べて強度が約4倍高いことを確認した(ニュースリリース)。
ワイル磁性体は,トポロジカルな電子構造を有する物質であり,従来の磁性体に比較して非常に大きな異常ホール効果を発生する等,様々な巨大物性を発現することが明らかになっており,産業応用に向けた研究が行なわれている。
研究グループでは,これまで,ナノメートルの厚みを有する磁性金属薄膜と重金属薄膜を積層した人工物質における光誘起テラヘルツ波に関する基礎的な研究を進めてきた。そのようなナノ積層金属薄膜はスピントロニクス・テラヘルツエミッタとよばれ,半導体や誘電体からなるテラヘルツエミッタとは異なるスピントロニクスに固有の物理原理で動作する。
製造が容易で,大面積化も可能であるといった,半導体や誘電体からなるテラヘルツエミッタにはない優位性も有している。他方,より大きな光誘起テラヘルツ波を発生するスピントロニクス・テラヘルツエミッタの開発には,異なる物理原理に基づく光誘起テラヘルツ波の研究や,その基盤となる物質の基礎研究が必要だった。
今回,研究グループでは,巨大な異常ホール効果を発現するワイル磁性体であるコバルト・マンガン・ガリウムホイスラー合金に着目し,その光誘起テラヘルツ波について研究した。
コバルト・マンガン・ガリウムホイスラー合金の単結晶薄膜試料を様々な条件で作製し研究を進めた結果,コバルト・マンガン・ガリウムホイスラー合金が,典型的な磁性体である鉄・コバルト・ホウ素合金に比較して強度が約4倍大きなテラヘルツ波を発生することが明らかになった。
また,このテラヘルツ波の発生が,ワイル磁性体に特有の巨大異常ホール効果に起因していることも明らかになった。この成果は,ワイル磁性体の理解を深めるとともに,新しい機能性を見出した成果だとする。
スピントロニクスに固有の物理原理である逆スピンホール効果を用いるテラヘルツエミッタ(発生器)に比較すると発生するテラヘルツ波の強度は低いものの,より単純な薄膜構造で作製でき,従来不可欠だった白金等の重金属元素を必要としない。
研究グループは今後,テラヘルツ波の発生に関わる定量的な物理理論の構築を進めるとともに,今回用いたワイル磁性体を超える異常ホール効果を発現する物質探索を通じて,産業応用へ向けた展開が可能だとしている。