東北大,メタマテリアルでテラヘルツ波偏向器を開発

東北大学の研究グループは,シリコン製のサブ波長構造で構成される透過型メタマテリアルを新たに開発し,屈折率を人工的に精密制御して空間配置する実効屈折率分布制御に基づき,テラヘルツ波の進行方向を所望の向きに変えることのできるテラヘルツ波偏向器を開発した(ニュースリリース)。

6Gの実現に向け,環境や状況の変化に応じてテラヘルツ波の伝播方向を走査または任意の向きに偏向制御する技術が求められている。これまでの周波数掃引によるテラヘルツ波の偏向制御技術は,低い電力効率と狭い偏向角度が課題だった。

研究グループは,低損失誘電体のシリコン製のサブ波長構造で構成される透過型メタマテリアルを新たに開発した。それを用いて実効屈折率分布制御に基づくテラヘルツ波偏向器を製作し,テラヘルツ波の広角の走査と高い電力効率の実現に成功した。

近年,反射型メタマテリアルを用いたメタマテリアル反射板による電波の偏向制御技術が報告されているが,反射板自体が電波を遮蔽するため反射板の裏側に電波を送ることができなかった。この研究では透過型の偏向制御板のため,偏向器の裏側の狙いの方向へ電波を届けることができる。

透過型メタマテリアルを形成する母材はシリコンで、サブ波長構造が周期的に配列されている。隣り合うサブ波長構造の寸法は設計に基づき異なる値にすることで,透過型メタマテリアルの実効屈折率分布を制御し,透過波の向きを変えることができる。

シリコンは,テラヘルツ波を吸収しないため電力効率の高い偏向器が実現可能であり,また,屈折率が大きいため厚さ525μmと極薄にもかかわらず広い偏向角度走査を可能とする。電磁界解析法を用いて,0.3~0.5THzの周波数帯において35~72°の偏向走査,0.4THzのテラヘルツ波を70%以上の電力効率で偏向可能な透過型メタマテリアルを設計することができた。

デバイスは,厚さ525μmの単結晶シリコンにテラヘルツ波の波長よりも小さい寸法の貫通孔を,それぞれ異なる大きさで設計通りに形成した。貫通孔は,半導体微細加工技術として確立されたシリコンの深堀りエッチング技術を用いて形成しており,高精度,量産加工が可能。

0.3~0.5THzの周波数帯において34~74°の偏向走査を実現し,電磁界解析で得られた理論値の35~72°と同等の性能を得ることに成功した。このような広角の偏向走査の実証は世界初。

研究グループはこの技術について,テラヘルツ波スキャナやイメージングへの応用展開も期待でき,6G通信技術だけでなく,医療・バイオ・農業・食品・環境・セキュリティなど幅広い分野での応用が期待されるとしている。

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