産総研,テラヘルツ波を高速に検出する吸収構造開発

産業技術総合研究所(産総研)は,高いテラヘルツ波吸収率と高速熱応答性の両立に加え,製造性に優れたテラヘルツ波吸収体を開発した(ニュースリリース)。

高い測定精度と高速応答性をもつテラヘルツ波パワーセンサーの実現には,吸収率と温度上昇速度に優れた吸収体が必要。しかし,次世代通信技術で注目されている6G帯のテラヘルツ波に対し,従来の吸収体では高い吸収率と高速な温度上昇速度を両立できなかった。

研究グループは,スリットや空孔が設けられた樹脂の中空ピラミッド構造に注目。3次元構造を形成することでテラヘルツ波の反射率を小さくでき,体積の小さな中空構造にすることで,温度上昇速度に影響する熱容量を小さくできる。

しかし,6G帯における樹脂のテラヘルツ波吸収率は10%以下と極めて低く,熱伝導率も低いため,熱容量を小さくしても高速な温度上昇速度を実現できない。

そこで研究グループは,金属の表皮深さより薄い1nmから100nmの金属薄膜を構造体表面に形成した。表皮深さより薄い金属薄膜は吸収層として利用できるため,樹脂の吸収率を補える。

金属薄膜の熱容量は小さく,テラヘルツ波を吸収することにより発生した熱エネルギーで大きな温度上昇が生じる。さらに,熱エネルギーは温度勾配と熱伝導率が大きな場所へと流れ込む。

金属薄膜の熱伝導率は樹脂よりも1桁以上大きいため,熱エネルギーは金属薄膜の方向に伝わる。この効果により,金属薄膜層全体が樹脂よりも高速に温度上昇し,単なる樹脂中空構造体よりも温度上昇速度が向上する。

研究グループは,考案した吸収体を実際に作製するため3Dプリンターに着目。3Dプリンターの特徴と電磁波熱設計を組み合わせる事で,最適な構造体の検討を行なった。

また,中空構造体の表面に吸収層かつ熱伝導層となる金属薄膜を形成するために,樹脂で出来た3次元中空構造の表面に均一な厚みの金属薄膜層を形成できる無電解めっきプロセスを開発した。

従来テラヘルツ吸収膜に使われてきたニクロム等の金属よりも導電率が小さなニッケルリン無電解めっき膜を選択することで,表皮深さを厚くし,数nmの膜厚変化に対して光学特性がほぼ変動しない吸収膜を実現。透過率・反射率・吸収率が最適となる膜厚に調整しやすい金属薄膜を実現した。

これにより,6G帯の吸収率が99%以上でありながら,3次元構造付きの従来品と比べて8倍以上,平面型の市販品・従来品に比べて2倍以上の温度上昇速度を実現した。

研究グループは,引き続き6G向けパワーセンサーに関する研究開発を進め,社会実装を目指すとしている。

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