キヤノンは,リサイクル現場でプラスチックの種類を判別する際,判別が難しい黒色と,その他の色のプラスチック片を高精度に同時選別することができる,トラッキング型ラマン分光技術を用いたプラスチック選別装置を新たに立ち上げたと発表した(ニュースリリース)。「TR-S1510」を含む「TRシリーズ」として,2024年6月6日より一般向けの受注を開始する。
私たちの生活の中で廃棄されるプラスチックのうち,約2割が新たな製品の材料として再生利用(マテリアルリサイクル)されているが,その他は燃料や未活用のまま焼却されている。再生利用する際は,プラスチックの純度が求められるため,ABSやポリプロピレン(PP)など種類を正確に判別する必要がある。
しかし,家庭用電化製品や自動車の内装に使用される黒色プラスチックは,可視光を通さず反射もしないため,現状のプラスチック判別方法である近赤外分光方式では種類の判別が難しいという課題があり,再生利用を加速するためには,高精度なプラスチックの種類選別と選別作業の生産性向上が求められる。
一般的に,ラマン分光方式によるプラスチックの判別では,レーザー光を一つひとつのプラスチック片に照射し物質の分子情報を取得するため,黒色プラスチック片を測定することができる。しかし,黒色は散乱する光が少なく,計測に時間がかかるため,高速に多量の処理が必要なリサイクル現場でのラマン分光方式の活用には課題があった。
今回,ラマン分光方式と同社の計測・制御機器を組み合わせて開発した,レーザー照射を走査するトラッキング型ラマン分光技術により,プラスチック片の色に合わせた計測時間を確保し,高速かつ高精度な判別を実現するという。
これまでの近赤外分光方式では選別が難しかった黒色プラスチック片も,その他のプラスチック片とともに同時選別することができるため,リサイクル現場の生産性向上とマテリアルリサイクルの最大化に寄与するとしている。
新製品は1.5m/秒の搬送スピードを保ちながら,最大1t/時の選別が可能となっている。プラスチック片のトラッキングや計測を行なうモジュールやベルトコンベヤーの組み合わせを変更することで,ユーザーの処理量や設置スペースに合わせた装置のカスタマイズにも対応するという。