静岡大学の研究グループは,ゲノム編集により透明金魚のさらなる透明化に成功した(ニュースリリース)。
透明金魚系統はDNAの塩基を一つだけ変化させる化学変異源物質,エチルニトロソウレア(ENU)を和金に作用させることで生まれた突然変異体の中から銀色の色素が形成できなくなり,透明に変化した金魚を選別交配することで2017年に作出された。
透明金魚は稚魚のうちは完全に透明で体内の様子が観察できるが,成長に伴い,白色素があらわれ成魚になると体全体が半透明になる。そこで研究グループは,メダカの研究で解明された白色素細胞の形成に必要な遺伝子であるpax7という遺伝子をゲノム編集技術で遺伝子破壊したら透明金魚をより透明にできると考え,研究を開始した。
ところが透明金魚の卵は通常の卵より柔らかくゲノム編集の溶液を顕微注入することが困難であることが分かった。そこでゲノム編集自体はまず和金のメスと透明金魚のオスを交配させた受精卵で行ない,変異導入が確認された魚を透明金魚と交配することにより透明金魚の形質を持ち,かつゲノム編集された金魚を選抜し,交配を繰り返すことでpax7ゲノム編集透明金魚系統を作出した。
なお,金魚は進化の過程でメダカなどに比べ遺伝情報が2倍に増えるゲノム重複を起こしているので,金魚にはpax7遺伝子がpax7aとpax7bの二つが存在することから,両方の遺伝子についてゲノム編集による突然変異導入を行なった。
作出したpax7ゲノム編集透明金魚系統の内,pax7bのゲノム編集金魚が白色色素を欠損した系統となり,より透明化した。このことから金魚のpax7aとpax7bの内,pax7bが白色素細胞形成に必要な遺伝子であることが解明された。
蛍光色素を体内に取り込ませて腸を観察したところ,透明金魚では体腔に反射して腹部全体が光ったのに対し,pax7ゲノム編集透明金魚系統では腸の形態が鮮明に観察できた。
このようにpax7ゲノム編集透明金魚系統では成魚でも体内臓器の観察が可能になった。樹立された系統は初期発生過程の研究や,卵巣や精巣などが観察可能であることから生殖生物学分野の研究に有用。研究グループは,生体内でのバイオイメージングに貢献できるとしている。