東京工業大学の研究グループは,マルチフェロイックAuBiFeO3光触媒ナノ粒子の作製に成功し,可視光および近赤外線照射下で高効率なメチレンブルー有機染料の分解を達成した(ニュースリリース)。
光触媒と太陽エネルギーを活用した水中の汚染物質分解は,安全な水を継続的に提供するのに最適なソリューションであり,二次汚染を防ぐためには,処理水から光触媒粒子をリサイクルできることも必要となる。
ビスマス,鉄を主原料とするBiFeO3は,可視光と近赤外光を吸収できるマルチバンドギャップを持つマルチフェロイック材料。BiFeO3のような光応答性材料の光触媒活性を向上させるには,半導体光触媒に導電性の高い金属ナノ粒子を複合することが有効となる。
そこで研究では,水熱プロセスにより,BiFeO3に金(Au)ナノ粒子を複合したAu- BiFeO3ナノ粒子を作製することを検討した。分解対象としては,メチレンブルー(MB)を用いた。
MBはデニム業界で使用されるインディゴ同様に一般的な有機染料で,POPsの一種とされており,環境中MBの除去技術の開発は,インディゴなどによる汚染のための環境保全を考える上で重要な意味を持つ。さらに,Au-BiFeO3の強磁性特性により,Au-BiFeO3ナノ粒子を簡単にリサイクルして二次汚染を防ぐことができると考えた。
作製したAu-BiFeO3は強磁性であることが確認されており,磁石に強力に引き寄せられることから,そのリサイクル可能性が示された。純BiFeO3はMBを分解する効果があり,金ナノ粒子と複合することで分解効率が向上した。1.0wt%Au-BiFeO3が最高の分解効率を示し,120分の反応後にMB濃度が0に近くなることが明らかとなった。
以上のことから研究グループは,マルチフェロイック光触媒Au-BiFeOナノ粒子は,SDGs達成に向けた画期的な進歩だとする。さらに,マルチフェロイック光触媒Au-BiFeO3ナノ粒子の分解力は,有機フッ素化合物(PFAS),細菌,ウイルスなど環境中のその他の有毒物質の分解にも効果的であると期待している。
【解説】今回の研究で分解の対象としているメチレンブルー(MB)は,本文にも書いてある通り,デニム(ジーンズ)を青く染めるのに使われている染料に似た性質を持ちます。炭鉱労働者の作業着として作られたデニムですが,作業中にガラガラヘビに咬まれるのを防ぐため,蛇が忌避する成分を含むインディゴで染めたのが青色の由来です(現在の染料は合成されたもので忌避作用はないそうです)。
作業着からスタンダードなファッションとしての地位を得た現在のデニム市場規模は,1,000億ドルを超えるとも言われています。一方でその製造による環境負荷が問題視されており,一般的なデニムパンツ1本を生産するのに使われる水の量は,最大で約10,000リットルにもなるそうです。この水には洗い流した染料が含まれており,製造する国や企業によってはこうした排水を環境に垂れ流し,深刻な環境汚染を引き起こしています。
今回の研究は,こうしたデニムの染料による環境汚染を光技術で防ごうというものです。開発した光触媒が染料を分解し,かつ使用後は磁石で集めてリサイクルが可能であれば,デニムを染めるのに使われる水の循環利用が可能となるかもしれません。なお,デニムの色落ち加工にはレーザーも使われており,こちらも水の使用を減らすことができる技術として利用が進んでいます。(デジタルメディア編集長 杉島孝弘)