東京大学の研究グループは,新しい光ピンセット技術「輪郭トラッキング光ピンセット(CTOTs)」を開発した(ニュースリリース)。
光ピンセットは,マイクロスケールの粒子をレーザー光の焦点に捕捉し操作する技術であり,生物学,原子物理学,ナノテクノロジー,コロイド科学,そして生体組織の機械的特性の計測など,多岐にわたる分野で応用されている。
しかし,従来の光ピンセット技術では,集光ビームを1点に照射して物体を補捉するため,大きさが数十µm程度の単純形状(球形やロッド状)粒子の操作が限界であり,特に大きな粒子や不規則な形の粒子の操作は困難だった。
そこで,研究グループは,顕微鏡で観察される粒子の輪郭を画像処理で抽出し,輪郭をトラッキングするようにレーザー光を動的に制御する「輪郭トラッキング光ピンセット(CTOTs)」を提案・実証した。
実験では,粒子の輪郭に沿って50個の捕捉点を等間隔に設定し,50msかけて粒子の輪郭を1周するようにガルバノミラーで集光点を二次元的に操作した。
この提案手法の実証実験として,大きさ約50µmと120µmの形状の異なる粒子に対して複数の実験を行なった。実験の手順として,まず基板に固着した粒子を剥離するために,レーザーの出力を350mWまで上げて粒子に照射する。
その後,剥離した粒子に対して,レーザーの出力を20mWから80mWまで下げて補捉を行なう。この時,CTOTsでは,リアルタイムの画像処理で粒子の輪郭を検出し,輪郭に沿った補捉点を計算することで,粒子の補捉を行なう。
その結果,従来手法(一点照射)では補捉できなかった大きく形状が歪なポリスチレン粒子を,CTOTsでは安定して捕捉することに成功した。また,CTOTsは従来の方法と比較して,粒子に適用される光放射圧が均等に分布されるため,粒子の不規則な回転や動きが大幅に抑制され,操作の精度が向上する。
この研究成果は,光ピンセット技術の新たな可能性を示すもの。この手法により,従来の光ピンセットでは扱うことのできなかった多様なサンプルの操作が可能になる。
研究グループは,特に生きたままの微生物の姿勢を制御して観察・分析したり,環境汚染で問題となっているマイクロプラスチックなどのサブmm程度の歪なサンプルの操作など,新たな応用領域での利用が期待されるとしている。