大阪公立大学,大阪大学,香港大学,東海大学は,色素性病変治療の臨床現場で利用されているピコ秒レーザーについて,波長ごとのレーザー照射指標を初めて開発した(ニュースリリース)。
色素性病変の治療において,シミやアザを狙い撃ちできる,すなわちメラノソームを選択的に破壊することができるピコ秒レーザーが注目されている。
ピコ秒レーザーは,炎症後色素沈着などの合併症が少ない治療方法であることが報告されているが,照射条件の目安となる指標(エンドポイント)を客観的に定める方法はこれまでなかった。
合併症を抑えた治療を行なうには,照射条件を設定する際に,標的に必要十分なエネルギーを与えることと,標的に届くまでに皮膚組織が光を吸収・散乱してしまうことの2点を考慮する必要がある。研究グループは,2021年に波長755nmピコ秒レーザーによるメラノソームの破壊閾値を報告している。
しかしながら,破壊閾値における波長依存性は明らかでなく,臨床で利用されている他の波長(532, 730,785,1064nm)において,照射条件を設定するための数値指標がなかった。
研究グループは,ヒト皮膚のメラノソームの代替試料として,ブタ眼球から抽出したメラノソームの懸濁液に光照射し,波長532,730,785,1064nmピコ秒レーザーによるメラノソームの破壊閾値を取得した。
次に,取得した破壊閾値と皮膚組織内の光伝搬効率に基づくピコ秒レーザー治療のモデルを構築し,組織内のメラノソームを破壊するために必要な照射条件を計算した。
メラノソーム分布に応じて必要となる照射波長,照射エネルギー密度,スポットサイズの関係性を定量評価し,照射条件の数値指標を示すことができた。さらに,この指標から,合併症の発生率が低く,高い有効性を示した既報の臨床結果を説明できることも確認した。
研究グループは,この研究の成果は,ピコ秒レーザーによる生体反応を理解して光照射することが最適な治療のために重要であることを示しており,開発した指標は,ピコ秒レーザーによる色素性病変治療のエンドポイント設定を手助けすることができるとしている。
さらに,この指標は臨床現場だけでなく,新規装置の仕様設計や前臨床段階での評価を効率的に行なうためにも有用と考えられる。今後,臨床データとの比較検証を重ねることで,科学的根拠に裏付けられたピコ秒レーザー治療が実践され,より安心安全な色素性病変治療につながるとしている。