富山大ら,レーザーが痛みを抑制することを実証

富山大学と帝人ファーマは,皮膚の上から坐骨神経にレーザーを照射すると,痛みとして感じられる強い刺激による神経活動のみが抑えられることを動物実験で実証した(ニュースリリース)。

低出力レーザー治療は,痛みの緩和,抗炎症効果,組織再生,傷の治癒など,さまざまな効果が報告されている治療法。日本では炎症による疼痛の緩和に保険適用があり,リハビリテーション領域で使用されている。

しかし,低出力レーザー治療がどのように痛みを緩和するのか,そのメカニズムは解明されていない。また,レーザーは皮膚や筋肉によって散乱し吸収されるため,深部の組織になるほどレーザーは届きにくく,効果も弱くなる可能性がある。ターゲットとする組織にどの程度のレーザーが到達すれば効果があるのか,統一的な見解は存在しない。

研究グループは,成熟ラットの脊髄後角に記録電極を刺入し,皮膚に機械刺激を加えることで脊髄後角の神経細胞の発火を記録した。機械刺激を加えるために,決まった圧力を加えることのできるvon Freyフィラメントを使用し,痛み刺激にあたる太いフィラメント,痛みと感じない弱い刺激にあたる細いフィラメントを使用した。

波長808nmの半導体レーザーを使用し,臨床の使用方法と同様に,経皮的にレーザーを照射した。次に,成熟ラットの坐骨神経にフォトダイオードセンサを埋め込み,経皮的にレーザーを照射することで,レーザーが坐骨神経に到達するのか検証した。

坐骨神経への経皮的レーザー照射は,触刺激による神経活動には影響せず,痛み刺激による神経活動を選択的に抑えることが明らかになった。これは,低出力レーザー治療が,触覚に影響を与えずに疼痛を治療できる可能性を示している。

さらに,フォトダイオードセンサによる計測で,レーザーは皮膚で約90%が減少し,残り約10%が坐骨神経に到達したことが示された。過去に報告した坐骨神経に直接レーザーを照射した時と,この研究の経皮的レーザー照射とで効果を比較したところ,神経活動の変化率は同等だった。

坐骨神経におけるレーザーの強さが皮膚上の約10%に減少したにも関わらず効果は同等であることから,低出力レーザー治療が比較的広いレーザーの強さで効果を発揮することを示唆している。

研究グループは,低出力レーザー治療が神経活動を抑制する現象の理解が深まることで,治療の適用範囲が広がり,より多くの人々に利用されることが期待されるとしている。そのために,現在は疼痛モデル動物を使用した基礎検討を行なっており,低出力レーザー治療がどのように痛みを取り除くのか,治療の仕組みを解明していく予定だという。

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