ソフトバンクと東芝デジタルソリューションズ(TDSL)は,TDSLの量子鍵配送(QKD)システムを,ソフトバンクの光無線通信の試験環境に導入し,光ファイバーと光無線を組み合わせたQKDの動作実証に成功した(ニュースリリース)。
現代社会において,国家安全保障や銀行取引,個人情報の保護など,幅広い分野でサイバーセキュリティーが重要な課題となっている。特に量子コンピューター技術の急速な発展や暗号解読アルゴリズムの研究の進展により,従来の暗号技術の危殆化が懸念されている。
QKDは重要な機密データを保護するための暗号鍵を配信する仕組みで,量子力学の原理に基づき,暗号鍵を盗聴して解読することが理論上不可能な通信技術。両社は,6G時代の量子セキュアネットワークの実現に向けて共創を進めており,これまでもQKDを用いた拠点間VPN通信の実証実験を実施してきた。
QKDは,量子力学に基づく原理を通信に応用することで,データの送信側と受信側の双方に共通の暗号鍵(共通鍵)をそれぞれ生成し,共通鍵を生成するための情報を光子に乗せて伝送する。
従来のQKDでは,都市部の拠点間の接続には光ファイバーを用いる必要があるため,ビル間や公道をまたいだ建屋間など,光ファイバーの敷設が困難な拠点や敷設に多くの時間を要する拠点では,QKDの導入が阻害されてしまう場合がある。両社は,この課題を解決するため,従来のQKDの構成に光無線も加えて活用する実証実験を行なった。
今回の実証では,TDSLのQKDシステムを,ソフトバンクの光無線の試験装置に導入し,光無線と光ファイバーを組み合わせたQKDセキュアネットワークの動作実証と性能評価を行ない,その有効性の確認に成功した。
動作実証において,光子の伝送路の途中に光無線を組み合わせた場合でも,光ファイバー向けのQKDシステムを変更することなく安定した鍵生成が可能であることを確認できた。また,性能評価において,暗号鍵の生成が可能な伝送路全体の光の減衰量について把握することができた。
今後さらに特性の把握を深めることで,光無線を組み合わせたQKDシステムの運用に必要となる無線機の要件定義や無線区間の回線設計が可能になるため,QKDセキュアネットワークの設計に大きく寄与するものと考えているという。
将来的には,ビルの屋上などに光無線機を設置して活用することで,光ファイバーを新設することなく短期間でQKDを利用することが可能になるという。両社は,今後も光無線の伝送路の長距離化によるエリア拡大など,QKDセキュアネットワークの拡張性を高める技術の研究開発を進めていくとしている。