ALAN,世界初の水中フュージョンセンサ技術を開発

著者: umemura maika

水中光技術の活用を通じて新市場の創出や社会課題の解決に向けて活動するALAN(Aqua Local Area Network)コンソーシアムは10月6日,コンソーシアム活動成果発表をメディア向けに行なった(ALAN HP)。

その会見の中で,海洋・海中を代表とする水中環境において,新コンセプトの水中センサロボットを駆使し,新たな水中事業の実現を目指す「アクアジャスト株式会社」を設立したことを発表した。

ALANコンソーシアムは,水中光技術の社会実装の議論を進める中,海洋・海中の新事業を推進する会社の必要性から,新会社の設立を決めたという。同社の代表取締役CEOは,ALAN コンソーシアム代表で,トリマティス代表取締役CEOを務める島田雄史が務める。

さらにこの会見においてALAN コンソーシアムは,水中のモニタリングをより一層図るため,LiDARとカメラを組み合わせた「水中ヒュージョンセンサ」新技術を発表した(ニュースリリース)。

これまでLiDARとカメラは,水中においてはそれぞれ単独の遠隔操作型の無人潜水機(ROV)に搭載して別々にデータを取得し,後からソフト的にデータを合成するのが一般的だった。しかし,これでは動きの速いもの等のリアルタイムで計測が困難であった。

この製品は,RGB三色レーザーを搭載した水中用LiDARで,カメラを同時搭載してハード的に融合している点で世界初だとしている。

従来,RGB三色のレーザーを搭載したLiDARは,ラインレーザーを用いた光切断法によって測定対象物をスキャンニングし,少し離れたところから計測用カメラで計測するという方式が用いられていた。

この方式の課題は,当てる光がライン光であるため拡散するので,測定対象物に当たるところの照度が低くなるほか,光源と測定対象を一定の距離を離さないと,精度があがらないため装置構成が大掛かりになりがちで計測時間が長くなるという課題があった。

そこで同社は,水中フュージョンセンサを用いて,これらの課題を解決しようと考えた。海水は季節や海域により光がよく通る波長(色)が変わり,また測定対象物の色合いにより反射光量が波長(色)で変わる。

そこでRGB三色レーザー(446,552,640nm)と,各色に対応した受光ユニット,4Kカメラを1台のLiDARに搭載した。走査速度は0.05/flame,1秒間の測定点数は120万点となっている。

陸上では自動運転向けに,LiDAR,カメラ,ミリ波レーダーなどを組み合わせたセンサフュージョン技術によって,システムのロバスト性の向上や精度の向上が図られている。特にレーザーをカメラを1つレンズに融合する技術も出始めている。

この場合,LiDARは近赤外光,カメラは可視光と,それぞれ異なる波長を使うため,カメラの前に近赤外光をカットし,可視光を透過するようなフィルタを入れれば,LiDARの光がカメラにノイズとして混入することを防ぐことができる。

しかし,水中では近赤外光は吸収されるためLiDARにも可視光を使わざるを得ず,陸上のセンサフュージョンのようなフィルタは使えない。

そこで同社は,ハード的にセンサーフュージョンを可能にする技術を考案した。レーザー走査(ラスタースキャン)を終点まで行なった後,フレームのスタート位置にレーザーの照射位置を戻すまでのLiDAR非計測時間帯にカメラ撮影を行ない,実質的なリアルタイム計測を実現した。

これにより,LiDARとカメラ双方の撮影速度や解像度を損ねることなくセンサフュージョンができる。さらに,水中透過率と測定物反射率をパラメータとした最適波長選択法も開発しており,これらの技術は特許出願中であるという。

これにより,水中LiDARで得た3D位置情報にカメラの色情報を付与できるほか,カメラによる認識機能も使用可能となる。さらに,LiDARの距離情報により,吸収される波長の光を加味したカメラの色調補正効果も得られるとしている。

同社はこの製品を現在発売に向けたチューニングを行なっており,11月より実証実験を開始し,ユースケースを探っていく予定だとしている。

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