工学院大学とオーク製作所諏訪工場は,発光層に岩塩構造酸化マグネシウム亜鉛を適用することで,190nmから220nmの波長域で発光するUV-Cランプの構築に成功した(ニュースリリース)。
波長220nm以下の光源は,低圧水銀灯やエキシマランプなどの放電ベースの光源が未だに主流となっているが,水俣条約により将来的な使用制限に向けた取り組みが強く求められている。
また,低圧水銀灯やエキシマランプは,元素により得られる波長が制限されることから,環境と人にやさしい220nm以下の波長域の新光源が求められている。
研究グループは,発光を担う材料に,新しい超ワイドバンドギャップ半導体として注目を集める岩塩構造酸化マグネシウム亜鉛を採用した。岩塩構造(RS)酸化マグネシウム亜鉛(MgZnO)は,酸化マグネシウム(MgO)と酸化亜鉛(ZnO)の混晶であり,混晶比を変化させることで,発光波長をUV-C域で自在に変化させることができる。
結晶は,石英ガラス基板上へ堆積させるが,ホットウォール方式ミストCVD法を使用した。この方法は大気圧下で高品質な薄膜が成膜できることが特長。このとき,原料のマグネシウムと亜鉛のうち,マグネシウムのモル比は95%とした。
石英ガラス製のランプバルブを製作し,ランプバルブの開口端部にフリットガラス材を用いてRS-MgZnO多結晶膜を溶着した。溶着後,放電ガスとしてKrガスを300Torr封入した。製作したランプに9kVp-pの電圧を印加し,誘電体バリア放電によりKr2エキシマ光(146nm)を発光させ,これを励起光としRS-MgZnO発光層から放出された光を裏面側から外部へ取り出した。
真空紫外分光光度計を使用し,Kr2エキシマ励起RS-MgZnOランプの試作品の発光特性を調べた。Kr2エキシマ光源からの漏れ光とともに,RS-MgZnOの微結晶由来の発光が観測された。この発光のピーク波長は202nmだった。
さらにこのピーク波長がRS-MgZnOの微結晶由来の発光であるかどうかを確かめるため,真空紫外分光システムを使用し,ランプで使用した膜と同条件で成膜した石英ガラス基板上のRS-MgZnO薄膜の,室温でのカソードルミネセンスを測定した。比較から,カソードルミネセンスの発光波長はランプの発光波長とほぼ一致していることが分かり,RS-MgZnOを発光層としたUV-Cランプの動作を確認した。
研究グループは,今回はピーク波長202nmだったが,岩塩構造酸化マグネシウム亜鉛の混晶比を変化させることで,更に短波長域のランプへの展開を目指すとしている。