富士キメラ総研は,米中デカップリングなどから経済安全保障の概念が広がる中,活発化する日本での半導体製造拠点新設,各種生産拠点の中国から東南アジアへの移管など,地政学的観点から戦略物資として位置付ける動きが注目されるエレクトロニクス先端部材の市場を調査し,その結果を「2024年 エレクトロニクス先端材料の現状と将来展望」にまとめた(ニュースリリース)。
この調査では,半導体関連14品目,基板・回路関連14品目,ディスプレー関連9品目,脱炭素ソリューション関連8品目,計45品目の市場を分析し,将来を展望した。
それによると,エレクトロニクス先端材料は,スマートフォンやPCといった民生機器市場がコロナ特需の反動もあって2022年後半から急速落ち込み,需要が急減した。
2023年は在庫調整もあって,半導体関連,基板・回路関連,ディスプレー関連の多くの品目の販売量が前年割れになるとみられる。現在では前年割れとなった品目の市場環境は改善に向かっており,2024年から2025年にかけて,2022年の販売規模への回復と予想する。
半導体関連市場は,2023年にマイナス成長となるが,2024年にはプラス成長に回帰するとみる。2022年後半からの在庫調整の影響で需要が低調であったが,在庫正常化以降は中長期的な需要増加に対応して設備投資計画も多く,市場は拡大推移と予想する。
特に,半導体の高機能化に必要なフォトレジスト(EUV)は,採用層数が増加していくため,伸長率が高くなるという。
基板・回路関連市場は,回路材料(コンデンサー)や好調な放熱材料にけん引され,2022年,2023年と堅調に推移した。今後は基板材料も需要回復が期待されることから,市場は高成長が続くと予想する。
データセンター関連で安定的な需要を獲得している品目の伸長率が高く,2023年はAIサーバー向けが急伸長した。また,昨今のxEV市場の急成長に伴い,フィルムコンデンサーが車載インバーターで需要を獲得しており,高単価であることから高伸長が期待されるという。
ディスプレー関連市場は,巣ごもり需要の反動から2022年に他市場より早く停滞した。2023年は在庫解消が進んだことによるパネル生産の改善,以降はTVのサイズアップなどを要因に,市場は微増推移と予想する。
ディスプレー分野では,近年OLED市場が拡大しており,フォルダブルOLED市場も今後高成長が予想されることから,フォルダブル用カバーシート・ガラスの伸長が期待される。また,OLED-TVに対抗すべく開発されたQD-TVの構成部材であるQDシートも伸長が期待されるとしている。
脱炭素ソリューション関連市場は,まだ形成期であり量産メーカーも限られる。2025年以降後発メーカーの事業立ち上げが相次いで普及段階に入り,2030年に向けて高成長と予想する。
世界的な脱炭素化の動きに伴い,各品目とも高伸長と予想する。特に,エネルギーハーベスティングや太陽電池などは,次世代の発電技術として注目が高まっている。
今回の調査で注目したポリマー光導波路は,フッ素樹脂などのポリマーをコアとする光信号の伝送路。薄くてフレキシブル性を有することから,狭小な通信機器内において光配線を形成することに適しており,高密度・高集積パッケージや情報通信エッジ端末内に使用することが可能だという。
また,低温での加工や大面積での生産ができることから低コスト化が期待されるという。一方でポリマーはガラスと比較して通信波長帯における伝送損失が大きいため,その損失を許容可能な短距離伝送路への採用が検討されている。
現在,市場は日本におけるスプリッター向けの実績であり,横ばいが続いている。日本でのスプリッター向けはすでに飽和しており,海外での展開もないため,今後も横ばいと予想する。
現在開発の中心となっている用途は,データセンター内通信におけるCPO(Co-Packaged Optics)への応用だという。すでに実績のあるガラスやシリコンの導波路と比べると低損失性・信頼性で劣るものの,2027年頃には応用が始まり,市場は急拡大すると予想する。