東京工業大学と東京大学は,生命発生に有利な惑星環境とされる,一酸化炭素(CO)に富んだ惑星大気が形成される条件を理論的に明らかにした(ニュースリリース)。
一酸化炭素に富む大気(CO大気)は,生命の前駆物質となる有機化合物が形成されやすく,生命発生に有利とされる。実際に地球の初期大気では,COが暴走的に生成されて蓄積するCO暴走状態が存在しうることが知られているが,CO暴走状態が発生し,CO大気が形成される条件は不明だった。
研究グループはまず初期地球大気について理論モデルを用い,CO2,CO,CH4の大気中の存在量比の多様性,とりわけCOに富む大気が形成される条件を調べた。
その結果,大気中CO2濃度が高い条件ほど,対流圏での水蒸気の光解離反応に比べてCO2の光解離反応が促進され,CO生成速度が水蒸気の光解離速度を超える段階でCO暴走が発生することが明らかになった。
また,火山からの還元的なガスの流入フラックスが大きいほど,大気中のOHラジカルが消費され,CO暴走が発生しやすくなることも分かった。
明らかになったCO大気の形成条件は,初期地球の大気CO2分圧や火山からの還元的なガスの供給速度の推定範囲内。特に生命発生前夜の約40億年前の初期地球で,火成活動による還元ガスの供給速度が現在の10倍以上であった場合,CO暴走状態にあった可能性と,CO大気から大量のCOや有機物が海洋へと供給されることも分かった。
さらに研究グループは,①現在の太陽(G型星)②太陽に似た恒星であるうしかい座シグマ星(F型星)③エリダヌス座イプシロン星(K型星)を周回する,生命の存在しない仮想的な地球型惑星の大気についてもシミュレーションを実施した。
その結果,表面温度が太陽よりも低い③のような恒星の周りの系外惑星では,CO暴走が引き起こされやすい一方,表面温度が太陽よりも高い②のような恒星の周りの系外惑星では,CO暴走が引き起こされにくいことが明らかになった。
主系列星の光度は時間とともに増大するため,より若い太陽型星周りのハビタブルゾーンの外縁に位置する惑星ほど大気中CO2濃度は高くCO暴走が発生しやすいといえる。
さらに還元的な惑星大気では,CH4/CO2とCO/CO2のパラメータ空間がCO暴走に起因するギャップ構造によって大きく二分されることも明らかになった。このギャップ構造は,太陽型星(F,G,K型星)を周回する地球型惑星に一般的な特徴で,将来の系外惑星大気組成のデータ蓄積で検証可能だという。
研究グループは,初期地球の海洋で引き起こされる化学反応についての研究が大きく進む成果だとしている。