京都大学,東京大学,明治大学は,葉緑体発達を適正に制御する新規因子BPG4を,BR生合成阻害剤Brzを用いたケミカルバイオロジー研究によって発見した(ニュースリリース)。
ステロイドホルモンは動物,昆虫から植物まで幅広く存在する生理活性化合物であり,植物ではブラシノステロイド(BR)と呼ばれる化合物が1970年代に発見されている。
BRは葉緑体発達に重要な役割を果たしている。しかし,BRの制御下において直接的に葉緑体発達の制御を実行する遺伝子については,明らかにされて来なかった。
研究グループは,野生型植物の緑化を促進するBRの働きを止めるBr生合成阻害剤Brzを使って,この成分の働きを止めたところ,この薬剤に耐性を示し,低緑色形態を維持する変異体から葉緑体発達の鍵遺伝子候補としてBPG4を発見した。
BPG4は,新規タンパク質をコードしていた。さらに,BPG4の破壊型突然変異体ではクロロフィル(葉緑素)増加を伴う葉緑体発達の促進が観察され,BPG4の高発現型形質転換植物では緑化低下と葉緑体発達の抑制が観察された。
植物の緑化を意味するクロロフィルの合成は,GLKタンパク質によって促進されるが,BPG4はGLKと結合し,その合成を阻害していることが明らかになった。さらに,BPG4はBRシグナル伝達のマスター転写因子によって制御され,緑化促進転写因子の転写活性制御によって葉緑体発達を制御する機能を持つことが明らかになった。
しかし,なぜBPG4は葉緑体の成長を抑える機能を持ちながら,植物の緑化を促進する環境条件下で活性化されるのか,その理由について研究グループは,BPG4機能の植物における生物学的意義を解く鍵と考えた。
強光下の実験によりBPG4は,植物の葉緑体発達を調節し,過剰な光合成から生じる活性酸素を抑制する役割を持つことが判明した。BPG4は,葉緑体の成長を適切にコントロールし,植物が強い光にさらされた際のダメージを最小限に抑えることがわかった。
この発見は,植物がどのようにして過酷な環境下でも生存し続けることができるのか,そのメカニズムを理解する上で重要な手がかりを提供するもの。また,BPG4は,光合成を促進するGLKタンパク質の活動を遅らせることで,過剰な光合成を防ぎ,植物の健康を守る重要な役割を果たしていることも示された。
研究グループは, BPG4の発見について,葉緑体発達制御の分子機構の解明,植物の葉緑体発達や光合成活性が適正に制御された新植物の創製を目指す新技術開発,などに繋がるとしている。