阪大ら,光誘起力顕微鏡で電子の歪を1nm以下で観察

著者: 梅村 舞香

大阪大学,大阪公立大学,大阪産業技術研究所は,光照射により発生する力(光圧)を計る顕微鏡(光誘起力顕微鏡)を用いて,単一分子の中で電子が複雑に歪む様子を1nm以下の分解能で画像化することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

個々の分子の電子分布を可視化することは,触媒作用,分子ナノテクノロジー,バイオテクノロジーにおける長年の目標。分子の電子分布は,孤立した環境だけでなく,隣接する分子や基質によっても支配される。

実環境におけるエネルギーと電荷の移動に関する情報は,望ましい分子機能を設計するために不可欠。これまで近接的な光場を観測する顕微鏡としては走査型近接場光学顕微鏡があったが,分子スケールを超える空間分解能でこれらの要因を可視化することは不可能だった。

今回,研究グループは,光誘起力顕微鏡とケルビンプローブ力顕微鏡を組み合わせた顕微鏡でペンタセン二重膜を観測し,そのデータを理論解析した。

その結果,電荷移動が起こった単一分子内部の電子雲の歪みを0.6nmの空間分解能で観測することに成功し,これまで観測不可能であった単一分子の多重極励起を画像化した。2次元マッピングにより,光誘起力は分子の端で強くなり,中央では弱いことを明らかにした。

また,理論計算の結果,電荷移動が起こらない場合は分子の中心で双極子の垂直成分が強く励起されるが,電荷移動が起こったときには,電子雲が複雑に歪み,双極子の垂直成分は分子の端で強く励起され,中心では相殺されることが分かった。

さらに電荷移動が起こる場合に出現した多重極励起状態は通常はほとんど光を吸収することはなく,分子は透明になるため,普通の光学測定では観測できない。

以上のように今回の発見は,従来の方法では不可能で,分子の近接光学応答と隣接環境間の電荷移動を同時に可視化する顕微鏡技術を組み合わせることによって初めて達成できた。

研究グループは,この技術は画期的な光触媒材料や太陽電池材料の実現に向けた新たな基盤技術として期待されるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 東大、細胞内の構造と微粒子の動きを同時観察する顕微鏡を開発

    東京大学の研究グループは、前方散乱光と後方散乱光を同時に定量する「双方向定量散乱顕微鏡」を開発した(ニュースリリース)。 ラベルフリー顕微鏡として広く用いられる定量位相顕微鏡(QPM)は、試料の屈折率分布に起因する前方散…

    2025.11.28
  • 東大ら,電子の自転公転のもつれを放射光X線で観測 

    東京大学,高輝度光科学研究センター,近畿大学,東北大学,理化学研究所は,ランタノイド元素周りに存在する4f電子の空間的な広がりを世界で初めて直接観測した(ニュースリリース)。 4f電子は,4f軌道に入る電子で,外側の軌道…

    2025.10.14
  • 筑波大,神経細胞の構造を10倍の精度で3次元計測

    筑波大学の研究グループは,神経細胞の微細構造を高速かつ高精度に3次元計測する技術を開発した(ニュースリリース)。 脳は一つの神経細胞,またはシナプス結合を基本単位として構成され,それらの形態や構成要素の変化が情報処理の基…

    2025.09.17
  • 愛媛大,光子と電子の中間のような電子を実現

    愛媛大学の研究グループは,有機分子を使い,通常の物質にはない性質を示す,光子と電子の中間のような,ふしぎな電子を実現することに成功した(ニュースリリース)。 今回こうした電子が発見された一連の物質には,新しく合成された物…

    2025.09.09
  • 阪大ら,時間決定型クライオ光学顕微鏡法を開発

    大阪大学と京都府立医科大学は,光学顕微鏡で観察中の細胞を,任意のタイミングかつミリ秒レベルの時間精度で凍結固定し,そのまま詳細に観察できる技術「時間決定型クライオ光学顕微鏡法」の開発に成功した(ニュースリリース)。 細胞…

    2025.08.27
  • 阪大ら,重い電子が量子もつれ状態にあることを発見

    大阪大学と広島大学は,重い電子系と呼ばれる物質群の一つであるセリウム・ロジウム・スズ合金(CeRhSn)の中で強く相互作用した電子が強い量子もつれ状態にあり,その寿命がプランキアン時間に従うことを初めて観測した(ニュース…

    2025.08.26
  • 東大,分子振動光熱顕微鏡で分子の熱泳動を可視化

    東京大学の研究グループは,分子振動光熱顕微鏡を応用し,細胞内に形成される温度勾配に伴う生体分子の熱泳動現象を可視化することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。 分子振動を利用した顕微鏡技術は,ラマン散乱や赤外吸収…

    2025.08.21
  • FHIら,散乱型近接場光学顕微鏡で分解能1nmを達成

    独マックス・プランク協会フリッツ・ハーバー研究所(FHI),分子科学研究所/総合研究大学院大学,スペインCIC NanoGUNEは,散乱型近接場光顕微鏡として,世界最良となる1nmの細かさで物質表面の局所的な光学応答を観…

    2025.07.18

新着ニュース

人気記事

新着記事

  • オプトキャリア