都立大ら,TMDシートでナノサイズ巻物状構造作製

東京都立大学,産業技術総合研究所,筑波大学,東北大学,名古屋大学,金沢大学,北陸先端科学技術大学院大学は,次世代の半導体材料として注目されている遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)の単層シートを利用し,最小内径5nm程度のナノサイズの巻物状構造の作製に成功した(ニュースリリース)。

遷移金属原子がカルコゲン原子に挟まれた構造を持つTMDは,TMDのナノチューブが同軸状に重なった多層TMDナノチューブにおいて,その巻き方に起因する超伝導や光起電力効果を示す。

一方,このような多層TMDナノチューブの結晶構造の同定は難しく,その電気的・光学的性質と構造の相関を明らかにするには,ナノチューブの巻き方の制御が重要な課題となっていた。

そこで単結晶性の単層のTMDシートを巻き取り,各層の結晶方位が揃ったスクロール構造が報告されている。一般にμmサイズの長尺な構造が得られるが,シートを曲げた場合,遷移金属原子を挟むカルコゲン原子の距離が伸び縮みするため構造的には不安定だった。

研究グループは,長尺かつ微小な内径を持つスクロール構造の作製に向け,上部と下部のカルコゲン原子の種類を変えたヤヌス構造と呼ばれるTMDに着目。このヤヌスTMDでは,上下のカルコゲン原子と遷移金属原子の距離が変わることで,曲がった構造が安定化することが期待できる。

このようなヤヌスTMDを作製するために,研究グループはまず,CVD法により二セレン化モリブデン(MoSe2)および二セレン化タングステン(WSe2)の単結晶性の単層シートをシリコン基板上に合成した。

この単層シートに対し,水素雰囲気でのプラズマ処理により単層TMDの上部のセレン原子を硫黄原子に置換し,単層ヤヌスTMDを作製できる。次に,有機溶媒を滴下して基板から剥がし,μm長のスクロール構造を形成した。

実際にスクロール構造を形成されたこと,全ての層が同一の方位を持つこと,そして最小内径で5nm程度まで細くなることなどを確認した。内径はヤヌスTMDのナノチューブでは最小で,直径が5nm程度まではフラットなシート構造よりも安定化するという理論計算とも一致する。

また,このスクロール構造に由来し,軸に平行な偏光を持つ光を照射したときに発光や光散乱の強度が増大すること,表面の電気的な特性がセレン原子側と硫黄原子側で異なること,およびスクロール構造が水素発生特性を有することも明らかにした。

研究グループは,この研究成果は,ナノ構造と物性の相関関係の解明,そしてTMDの触媒特性や光電変換特性などの機能の高性能化に向けた基盤技術となるとしている。

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