大阪大学と国立台湾大学,中国済南大学は,単結晶シリコンで作られたナノ共振器構造において高次のミー共鳴を発生させるための新たな条件を発見した(ニュースリリース)。
入射光に含まれる時間的に変化する電場がナノ構造の分極振動と共鳴を起こすことで生じるミー共鳴は,その分極の振動の空間的なパターン(モード)によって,双極子モード,四重極子モード,多重極子モードなどが知られている。
共鳴のモードによって,ナノ構造から出る散乱光の方向や光の吸収率が異なるため,モードをコントロールすることでデバイスの性能を自由に制御することができるが,これまでミー共鳴モードは光の波長と構造のサイズのバランスのみで主に決定されてしまい,他の方法で制御することは難しいと考えられてきた。
研究グループは,レーザーを使って照明光をシリコンナノ共振器と同程度のサイズまで強く集光した際,照明光と構造の相対的な位置が「ずれ(変位)」を示すと,多重極共鳴の励起が引き起こされることを発見し,新たな共鳴モードとして「変位共鳴(Displacement Resonance)」と名付けた。
レーザー走査顕微鏡を使ってシリコンナノ共振器の光学画像を取得し,照明位置とナノ共振機からの散乱信号強度の関係を調べた。実験では,レーザー光をナノ構造の大きさ(100nm程度)と同じくらいになるまで高い開口度の対物レンズを使って絞り込んだ。
得られたシリコンナノ構造のレーザー走査顕微鏡像は,ナノ構造と照明光の中心がぴったり重なった時に得られる散乱信号が小さくなり,反対に照明光が100nmほど中心からずれた位置の信号が大きくなるような特異な空間分布を示した。
また,ナノ構造に照明光があたらない位置では,構造からの散乱信号は発生しない。これまでミー共鳴を測定するために広く使われてきた暗視野顕微鏡観察ではレーザー走査顕微鏡のように強く絞り込まれた照明光を使用しないため,このような現象は見られなかった。
光の散乱現象を主に支配するのは「共鳴による光と物質の相互作用」といえる。この実験はレーザー光の位置がナノ構造の中心と一致しているときは光の散乱は最大ではないが,集光スポットが構造中心からある程度離れたときに最大になるという,直観に反する結果を示した。
また,理論計算による共鳴モード解析によって,光の散乱が最大になっている位置で,高次のミー散乱が誘起されていることがわかった。
研究グループは今回発見した変位共鳴について,ナノ構造の温度上昇による屈折率変化を利用した高効率な全光スイッチングデバイスへの応用が期待できるとしている。