立命館大学,大阪大学,京都大学,MOLFEX,高輝度光科学研究センターは,りん光発光特性を示すπ電子系PtII錯体を新たに合成し,適切なイオンペアとの共結晶化による集合体構造の制御によって,固体状態の常温りん光強度を向上することに成功した(ニュースリリース)。
π電子系はその構造や電子状態に応じ光物性を溶液状態で示すが,固体状態で光物性を発現することは容易ではなく,溶液状態とは異なる光物性を示したり,消光したりする。このため,規則的なπ電子系の組織構造からなる発光性材料の形成が望まれていた。
研究では,アニオン会合能を有するπ電子系PtII錯体1aの誘導体として1b–eを新たに合成した。π電子系 PtII錯体は溶液状態でりん光を発現し,PtIIに導入するπ電子系の種類に依存した発光波長を示すことを見出した。
PtII錯体はアニオンと会合体を形成し,アニオン会合前後の発光強度の変化は小さいことが分かった。一方,固体状態のPtII錯体は発光をほとんど示さないが,これは平面状PtII錯体が互いに重なることで発光が抑制されるためで,結晶構造解析や発光物性の理論的評価から示唆された。すなわち,固体状態での積層構造を回避することができれば,溶液状態のような発光強度を示すことが考えられる。
PtII錯体がアニオンと会合体を形成することをふまえ,PtII錯体とかさ高いカチオンを対とするアニオンのイオンペアを共存した溶液から再沈殿によって結晶が得られ,この結晶が発光することを見出した。結晶の発光寿命測定からりん光であることが強く示唆された。
さらに,結晶のX線構造解析から,PtII錯体はアニオンと会合し,互いに水素結合による鎖状集合体を形成し,かさ高い対カチオンがアニオンの近傍に配置することで,鎖状集合体とカチオンが互いにサンドイッチ型に積み重なった構造(電荷積層型集合体)をとることが明らかになった。
すなわち,カチオンがPtII錯体に対し近接配置することでPtII錯体の積層が回避された構造をとり,溶液状態に近い発光物性を示すことが分かった。また,発光波長はPtIIに導入したπ電子系配位子の種類に依存し,発光色は黄緑〜赤色に変化した。
発光強度の増大を目的とした分子修飾では複雑な合成がしばしば必要となるが,今回の方法では,発光性PtII錯体とアニオンおよび対カチオンの溶液を用い,簡便な再沈殿によって大量・迅速に発光性PtII錯体イオンペアを創製できる。
研究グループは,π電子系からなる発光性材料の創製手法として,今後さらなる光機能性材料への展開が期待されるとしている。