愛媛大学,信州大学,早稲田大学,国立天文台,IPMU,尾道市立大学,京都大学,東北大学,JAXA,ASIAAは,クェーサーの前段階と考えられている,ドッグ (Dust-obscured galaxy: DOG) と呼ばれる天体を発見した(ニュースリリース)。
巨大ブラックホールが周囲の物質を飲み込んで輝く天体にクェーサーがある。クェーサーとして光っている大質量ブラックホールは太陽の10億倍もの質量を持っていることがわかっているが,そのような天体がどのようにできたかは現代天文学の謎の1つとなっている。
この謎に対してドッグ (Dust-obscured galaxy: DOG) と呼ばれる天体がクェーサーの前段階として近年注目されてきた。ドッグがクェーサーになるには,ドッグを覆う大量の塵を吹き飛ばす段階が必要だと予想されていた。しかし,この段階は短時間なため,これに相当する天体の発見は困難を極めていた。
今回研究グループは,ドッグとクェーサーの両方のスペクトルの特徴を持つ青く光る天体の探査をすばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHSCと米WISE衛星の中間赤外線データを用いて行なった。結果として 8天体の候補天体が見つかり,これらの天体をブルドッグ(BlueexcessDOG: BluDOG)と名づけた。
後に行なった追観測で,青い光がクェーサーの光に似ていることを突き止め,このことからブルドッグは塵を吹き飛ばす段階であると結論づけた。
さらに,2022年から観測開始したジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠(JWST)によって120 から130 億光年かなたの宇宙で発見された極めて赤い天体 (Extremely red object: JWSTERO)のスペクトルがブルドッグのスペクトルとよく似ていることに気付いた。
これらを詳しく比較することで, JWST-ERO はクェーサー直前のアウトフロー段階にあるブルドッグのような天体であると結論した。このように,クェーサーの形成は130 億光年前の宇宙初期の段階ですでに始まっていることが明らかになった。
より遠く,より暗いブルドッグを見つけるためには中間赤外線におけるより高性能な観測装置の登場が必須になる。現在,日本ではGREX-PLUSと呼ばれる赤外線の衛星計画が構想されており,研究グループは,ブルドッグとクェーサー誕生の謎を解明できるとしている。