名古屋大学と京都大学は,デンキウナギの放電が遺伝子組み換えの原動力になり得ることを新たに発見した(ニュースリリース)。
細胞生物学分野には,エレクトロポレーションと呼ばれる遺伝子導入法がある。レピシエント(受け手)となる組織や細胞をDNA溶液に浸して,電源となる機械が出す高電圧によって胞膜に穴を開けてDNA分子を細胞内に入り込ませ,遺伝子組み換えを促する。
これは従来,あくまで実験室で人為的に引き起こされる現象として認識されていた。今回研究グループは,自然環境でエレクトロポレーションが起こる可能性を考えた。アマゾン川に生息するデンキウナギはエレクトロポレーションを行なう装置よりも遥かに高電圧の電気を発生させることが知られている。
そこでデンキウナギを電源,周辺に生息する生物をレシピエント細胞,水中に遊離した環境DNA断片を外来遺伝子で見立てると,デンキウナギの放電によって周辺生物で遺伝子組み換えが起こるのではないかと仮説を立てた。アマゾン川の野生環境下でこの仮説を検証することは敷居が高いため,研究室でデンキウナギを飼育して代替モデルによる検証を計画した。
電源のデンキウナギのほか,レシピエントには広くモデルとして用いられるゼブラフィッシュを,遺伝子組み換えの評価のためには緑色蛍光タンパク質GFPをコードする遺伝子配列を使用した。
ゼブラフィッシュ幼魚とGFP遺伝子を含むDNA溶液を通電性の容器内に共存させ,水槽の中に沈めてデンキウナギの放電に晒した。その結果,約5%の幼魚でGFP遺伝子の導入とタンパク質の産生を示す緑色蛍光を観察することができた。
実験に最適化された機械によるエレクトロポレーションには効率こそ及ばないが,デンキウナギが発する放電にも遺伝子組み換えを起こすポテンシャルがあることを初めて実験的に示すことができた。
研究グループは,今回の成果で,デンキウナギの放電が周囲の生物に遺伝子組み換えを引き起こす要因になり得ることが示された。この結果は管理された実験室で観測された現象に過ぎず,多様な生物種と環境要因を含む自然界でも起こっていることを主張できる結果ではないとしている。