日本原子力研究開発機構とAGCは,機械学習を応用してシリカガラスの原子配列を高精度に再現する原子シミュレーション技術を開発し,これまで謎とされてきたシリカガラスの詳細な原子構造を明らかにした(ニュースリリース)。
シリカガラスは光ファイバー,半導体製造,太陽電池など様々な分野で用いられ,現代の社会基盤を支える素材として重要な役割を果たしている。しかしながら,シリカガラスの原子レベルの構造は物質科学の大きな謎の一つとなっていた。
研究グループは,二酸化ケイ素を対象とする数万通りもの小規模な第一原理計算を行なうことによって,人工ニューラルネットワークに学習させる教師データを作成し,二酸化ケイ素の各種結晶相,液相,ガラス状態に対する高精度かつ大規模な計算を短時間でシミュレーションすることを可能にした。
今回,圧縮により高密度化されたシリカガラスのFSDP(中性子およびX線回折実験において観測される0.4nm程度の波長領域に現れる鋭い回析ピーク。中距離の秩序構造を反映したものと考えられている)を計算の対象とした。
シリカガラスの秩序構造は屈折率や光ファイバーの光損失と深く関連しており,圧縮や熱処理による秩序構造の制御が,新しいガラス材料の開発に直結する重要課題と考えられている。
研究グループは,開発した機械学習分子動力学法により低温圧縮と高温圧縮による構造の変化を高精度に再現可能であることを確かめた。特に,高温圧縮におけるFSDPの発達は,従来の近似的な計算手法では再現が困難だったが,この研究によって初めて再現された。
また,シリカガラスの共有結合ネットワークである,ケイ素-酸素から構成されるリングの形状やその配列を解析することにより,ネットワーク構造の中に現れる中距離の秩序構造がFSDPを生み出すという説の検証に成功した。
高密度シリカガラスにおける秩序構造の変化のメカニズムを明らかにするために,圧縮時のリング構造の変形挙動,特にリングのアスペクト比に注目した結果,低温圧縮では,全てのリングのアスペクト比が変化するのに対し,高温圧縮では,大きなリングのアスペクト比がより大きく変化して細長くなることが分かった。
この結果,高温圧縮ではリングの短辺の長さスケールが,小さなリングから大きなリングまで揃うことになり,リングの幅が均一化することで,ケイ素-酸素共有結合のネットワーク構造中の周期性がより顕著になり,FSDPの発達に寄与していることが明らかになった。
研究グループは,より高速かつ効率的な情報伝達を可能にする新しいガラス材料の研究開発に貢献する成果だとしている。