東北大学の研究グループは,アルカリニクトゲン(水素を除く元素周期表1族元素(アルカリ金属)と15族元素(ニクトゲン)の化合物)が,太陽電池材料として有望であることを発見した(ニュースリリース)。
変換効率の低いシリコン以外で実用化された,ヒ化ガリウム,CIS系,テルル化カドミウム,そしてハロゲン化鉛系ペロブスカイトは,ヒ素,セレン,カドミウム,鉛などの有害元素を含む。そのため,これらの材料の発電性能を保ちつつ,安価かつ無害な元素で構成される太陽電池材料が求められてきた。
研究グループは,1873年に発見された人類最初の固体太陽電池材料であるセレンに注目した。この材料の効率は6.5%と,ヒ化ガリウム(27.8%)やペロブスカイト太陽電池(26.1%)には遠く及ばない。その大きな理由として,バンドギャップが最適値(1.5eV)よりも大きい値をとる(1.8eV)ことがあげられる。
そこでバンドギャップをより最適な値に調整するため,16族のセレンを15族のニクトゲンに置き換え,足りない電子を補うために,格子間にアルカリ金属を導入する,従来とは異なるエレメントミューテーション法を考案し,適用した。
その結果,アルカリニクトゲン化合物が,適切なバンドギャップを有し,さらに軽い有効質量と高い光吸収係数を持ち,太陽電池材料として有望であることを,第一原理計算を用いて発見した。中でもリン化ナトリウム(NaP)が無害で安価な元素で構成されており,太陽電池材料に適していることを見出した。
NaPについてより詳細な計算を行なったところ,ドーピングを行なうことで,p型とn型の双方の半導体が作製できることがわかった。
一方で,リン空孔が太陽電池の性能を阻害することが分かったので,リン空孔を減少させる方法として,合成温度を下げることと不純物濃度を調整することを提案した。
そして第一原理計算による予測結果を部分的に実証するため,リン化ナトリウムの合成を行ない,不活性ガス雰囲気中での分光測定からそのバンドギャップを外挿により求めた。その結果は1.66eVとなり,計算予測値の1.62eVと良い一致を示すことを確認した。
研究グループは,リン化ナトリウムは安価かつ無害な元素で構成されているため,太陽電池材料として実用化されれば社会に及ぼす影響は極めて大きく,今後,実用化に向けたさらなる開発が期待されるとしている。