産業技術総合研究所(産総研)は,難接着性フッ素樹脂の表面を粗化することなく接着性の高い状態に表面改質する,大気環境下で簡便に実施可能な新しい手法を開発した(ニュースリリース)。
誘電損失が最も小さい材料の一つで,次世代通信回路基板として期待されるフッ素樹脂はモノをはじく性質が強く,異なる材料との接着が難しい。従来のフッ素樹脂の接着では金属Na処理による表面改質が行なわれているが,表面を深さ100nm以上に粗化してしまうことや樹脂の変質を伴う問題があった。
研究グループは,大気中でも安定な金属有機酸塩の有機溶媒溶液を使用した。この溶液をフッ素樹脂表面に塗布乾燥して有機金属膜を形成した後,紫外光を照射することによって,膜中の有機金属成分の反応を促しナノサイズのコーティング膜を形成する。
このコーティング膜は改質したフッ素樹脂と強固に結合する。PFA樹脂に対して,金属イオンとしてNi2+を選択した場合,多種の接着剤に対して7N/cmを超える高い接合強度を示した。剥離試験では,剥離箇所が接着界面ではなく接着剤内部であったことから,フッ素樹脂表面のナノコーティングによる高接着性が実現していた。
接着面の元素分析の結果,紫外光により有機金属が樹脂中のC-F結合と反応し,ナノコーティング膜中にFイオンを取り込むと同時に樹脂表面にC-O結合を形成することによって,接合が強くなることを明らかにした。
また,金属イオン種の選び方でナノコーティング膜が水溶性になるため,接合前に表面を水で洗浄してナノコーティング膜を溶解除去し,露出させたフッ素樹脂改質面に対して直接接合させることもできる。
改質前のPFA樹脂は表面ラフネス値(Ra値,3μm×3μm範囲)で6nm程度の高い平滑性を持っているが,Ni2+を用いた表面修飾後のRa値は8nm程度と,改質前と同程度の平滑性を示した。
また,水溶性を付与したコーティング膜を洗浄除去することで露出させたフッ素樹脂面も,Ra値で10nm程度の平滑度を示した。これまで工業的に広く用いられてきた金属Na処理では,100nm以上の凹凸を持つ表面になることが知られていた。
この手法では,温和な反応性の試薬と紫外光照射を組み合わせることによって,フッ素樹脂へのダメージを大幅に抑制し平滑度の劣化を従来の1/10以下とした表面改質を実現し,非常に平滑な表面での高強度接合を可能にする。
研究グループは,この手法により,フッ素樹脂の応用が期待される次世代通信回路基板に要求される平滑性を満足するなど,従来の金属Na処理では適用できなかった用途への展開が期待されるとしている。