東北大ら,ありふれた元素だけによるSHGを検証

東北大学,米ライス大学,米マサチューセッツ工科大学は,ヤヌス型遷移金属ダイカルコゲナイドと呼ばれる表面と裏面で別の原子層を持つ2次元物質が,波長400nmのSHGを発生することを第一原理計算で検証した(ニュースリリース)。

第2高調波発生(SHG)は,物質の光に対する非線形応答を利用して,入射光の倍のエネルギー(半分の波長)の光を発生させる。SHGを起こす条件として,空間反転に関して対称でない物質であることが必要だが,条件を満たす物質の選択は限られていた。

遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)は,遷移金属(Mo,W)原子層の上下をカルコゲン(S,Se,Te)原子層で挟んで,サンドイッチ構造をした入手が容易な2次元物質。上下のカルコゲン原子層を別の原子にした構造をヤヌス型TMDと呼ぶ。ヤヌス型TMDは,ありふれた元素でできた物質でも空間反転対称でない物質を創製でき,SHGを発生・増強することができる。

SHGの原理はすでに理解されていたが,高効率にSHGを発生する物質を設計することは,従来の2次元物質では容易なことではない。従来は既存の物質の中からSHGを起こす物質を探索することが研究の中心だった。

一方,2次元物質の合成技術の進歩とともにより自由な物質設計が可能になり,反転対称性を持たない物質を比較的身近な元素を用いて合成できるようになった。そこでSHGをより強くするため,計算機を用いた物質設計,物性探索が必要になってきた。

研究チームは,積層秩序と歪み工学を利用することにより,2次元材料のSHGを改善する新しいメカニズムを第一原理計算で実証し,反転対称性を持たない2次元物質の最適な積層方法を見出した。

AA積層では反転対称性が無いため,計算では,AA積層(最大非線形感受率χ(2)=550pm/V)は,AB積層(最大χ(2)=170pm/V)の3倍大きくなる。これは,この結果は実験的に定量的に再現でき,計算結果の信頼性を示している。

さらに非線形な応答を増強させるために,物質を20%歪ませることを計算機上で仮想的に行ない,SHGが非常に大きな値になることを見出した。一般に2次元の固体の結晶を20%歪ませることは不可能だが,2次元物質の場合には面に垂直な方向の結合がないために,ストッキングのように面内方向の歪も20%程度歪ませることができる。

研究グループは,今後,歪2次元ヤヌス型遷移金属ダイカルコゲナイド物質を用いたSHGの実用化が期待されるとしている。

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