京大ら,固体における高次高調波の発生機構を解明

京都大学と筑波大学は,赤外のレーザーパルスを半導体ナノ粒子に照射して生じる高次高調波強度のサイズ依存性を精密に測定することにより,固体における高次高調波の発生機構を明らかにした(ニュースリリース)。

近年,原子や分子ガスに赤外線レーザーパルスを照射すると,その整数倍の振動数をもつ高次高調波が発生し,X線に至る高い振動数の光やアト秒(10-18秒)パルス光を作り出すことができるようになっている。

最近では,ガスに比べて高い原子密度を有する固体を利用した高効率な高調波光源の開発が可能となり,また発生過程を利用した固体材料自身の新たな分析方法としての応用が期待されている。しかしこれまで,固体からの高次高調波の研究は,そのほとんどがバルク結晶を対象とし,その発生機構の理解は十分ではなかった。

固体における高次高調波発生では,強いレーザー光電場による電子駆動が重要な役割を担っていると考えられてきた。ナノ粒子では,大きなバルク結晶(連続状態)と小さな原子・分子(離散化準位の電子)との中間に位置する領域でサイズを変化させることにより電子の動ける領域を操作できる。

このため,バンド電子の加速運動や励起状態を制御でき,精密な分光により高調波発生のメカニズムに新た知見が期待される。研究では,化学的手法により精密にサイズが制御された半導体ナノ粒子(CdSe,CdS)に,赤外線レーザーパルスを照射することで,可視から紫外領域の広い波⻑領域にわたる高次高調波を観測した。そして,直径が約2nmより大きくなるにつれて高調波強度が100倍程度増大することを世界で初めて発見した。

高調波発生の機構の理解をさらに深めるために,赤外線レーザーパルス照射直後に生成するキャリア密度を測定し,発生する高調波の強度のナノ粒子サイズ依存性と同様の変化を示すことがわかった。観測されたこれらのサイズ依存性を,半導体ナノ粒子の電子状態のサイズ効果を取り込んだ理論計算によって再現することにも成功した。

これらの結果から,レーザーパルス照射によって生じるバンド間の多光子遷移だけでなく,レーザー電場による電子の加速運動(バンド内遷移)によって多光子吸収が増強され,励起キャリア密度の増大さらには高調波発生効率が大きく増大することがわかった。

とくに,連続的な電子状態を有し電子運動が空間的に制限されにくい大きなサイズのナノ粒子では,より効率的なバンド内遷移が生じ,急激な高調波強度の増大をもたらすことを明らかにした。

今回,レーザーの光電場の周期という極めて短い時間内で固体中の電子運動を操作できることがわかった。研究グループは,高次高調波光の特性を制御する技術としてだけでなく,高精度なレーザー加工,レーザーの光電場で電流を制御する強電場フォトニクス開発にもつながる重要な知見だとしている。

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