神戸大学の研究グループは,同グループで開発したオリジナルのフロー光オン・デマンド有機合成システムをバージョンアップして,ホスゲンとヴィルスマイヤー試薬を外気に触れることなく,システム内で逐次連続的に合成して,医薬品原薬や中間体の連続フロー合成に用いることに成功した(ニュースリリース)。
ホスゲン(COCl2)は,医薬品原薬・中間体やポリマー原料として用いられている。世界のホスゲン市場は現在も年数%の規模で増加を続けており,年間800〜900万トン生産されている。しかし,極めて高い毒性を持つため,安全性の理由から,それを代替することができる化合物や化学反応の研究開発が行なわれてきた。
研究グループは,同グループで開発したフロー光オン・デマンド合成システムを用いて,汎用有機溶媒のクロロホルムのフロー光酸化反応により生成したホスゲンを,ジメチルホルムアミド(DMF)と反応させて,高効率(~定量的)かつ短時間(システム内滞留時間5分以内)で,ヴィルスマイヤー試薬を連続合成することができた。
同様に,DMFとカルボン酸の混合物から塩化アシルを合成することにも成功した。当該フロー光反応システムにさらに試薬注入用のポンプを増設し,アルコール,アミン,もしくは芳香族化合物を注入し,それらの試薬と反応させることによって,エステル,カルボン酸無水物,アミド,芳香族アルデヒド前駆体,β-chloroacroleins前駆体などの連続フロー合成に成功した。
約3時間の運転時間で,~6g程度の生成物を得ることができ,ヴィルスマイヤー試薬を含めて計20種の化合物の合成に成功した。
ホスゲンは極めて高い毒性を持ち,また,ホスゲンとヴィルスマイヤー試薬は両者とも水分を含む空気中では不安定で,分解してしまう。
閉鎖した流動空間での連続化学合成を可能にするこのフロー反応システムは,クロロホルムの光酸化生成物(ホスゲンを含む)とDMFの安全かつ効率的な反応によるヴィルスマイヤー試薬の生成,それに続くカルボン酸の塩素化,芳香族化合物のホルミル化,アセチル基の塩素化/ホルミル化などに適していることが明らかになった。
研究グループは,この合成法および合成システムは,従来法よりも安全であり,消費エネルギーが少なく,廃棄物も少なく,多段階の連続フロー合成とスケールアップ合成が可能であり,低LCAの化学品合成を可能にし,カーボンニュートラルの実現に貢献することが期待されるとしている。