千葉大学と大阪公立大学は,蛍光色素が溶解した高粘度液体(蛍光性インク)の液膜に光渦を照射することで,直径100µm程度のサイズの揃った液滴を,µmスケールの高い位置精度で印刷することに成功した(ニュースリリース)。
液滴を対象物に直接印刷する手法として,ノズルから微小液滴を吐出して印刷を行なうインクジェット技術がよく知られている。しかしながら,高濃度で高粘度なドナー物質をノズルの目詰まりなく印刷することは難しく,新しい印刷技術が求められてきた。
レーザー誘起前方転写法(LIFT)は,レーザーパルスを照射して印刷したい物質を転写するという印刷技術。LIFTは,インクジェット印刷とは異なりノズルを使用しないため,様々な物質を目詰まりの心配なく吐出することができる次世代印刷技術として期待されている。
従来のLIFTでは,通常のレーザー光(ガウスビーム)が利用されてきた。研究グループは,光渦と呼ばれる特殊なレーザー光を用いると,従来のLIFTでは転写できない高粘度液体を安定して印刷できることを見出した。
研究グループは,水の約100倍の粘度をもつ蛍光性インクを使用した。通常のレーザー光を照射して印刷を行なうと,吐出される液滴のサイズは不均一になり,転写位置も不規則となる。さらに主滴に加えて多数の副滴が同時に印刷されてしまう。
一方,光渦を用いると直径100µm程度のサイズの揃った液滴を,10%以下の位置決め誤差で転写することができた。さらに,副滴が生成することなく,主滴のみが安定的に印刷された。
液滴吐出過程を観察したところ,光渦特有の捩じり力が液膜に働くことにより液膜が高速で捩じられ,自転するジェットや液滴が生成されることで,安定した印刷が可能になることがわかった。
光渦LIFTにより,微小液滴のパターニングを行なった。33個の微小液滴を転写することにより,大阪公立大学の英語表記の頭文字である「OMU」を描いた。
パターニングした液滴はピンク色の蛍光を発し,全ての液滴において中心部よりも端部分で強い蛍光が観察された。これは,液滴内部で発せられた蛍光が液滴/空気界面での反射を繰り返しながら液滴内部に閉じ込められていることを示している。
この光閉じ込め効果により,液滴はレーザー発振し,蛍光のスペクトルが大きく変化し,ある特定の波長の光が強く発せられるようになる。
研究グループは,蛍光色素の種類を変えることにより,異なる色の微小液滴レーザーアレイの作製が可能になり,高感度センサーやレーザーディスプレーなどへ応用することができるとしている。