山口大学,東北大学,高知工科大学は,発光する弾性結晶を対象に多光子顕微鏡を用いて,世界で初めて分子結晶の内部情報の取得に成功した(ニュースリリース)。
結晶の不均一さを実験的に詳細に解析する手法が限られていたため,「結晶は不均一である」ことはこれまであまり注目されていなかった。そのため,均一な粉末状のサンプルに対して,吸収や蛍光スペクトルなどの分光学的な性質に基づいて結晶の表面や内部の違いが推定されてきた。
多光子顕微鏡は,非線形光学現象の一つである多光子吸収現象を利用した顕微鏡技術の一つであり,物体を3次元的に非破壊に観察できる特徴を持つ。この技術は,最先端の研究では,生物の細胞や組織を観察することに使われている。研究グループは,この研究で,この技術を分子結晶材料に応用した。
扱う分子結晶としては,非常に珍しい弾性変形が可能な1,4-bis(4-methylthien-2-yl)-2,3,5,6-tetrafluorobenzeneを用いた。これは分子結晶にも関わらず,力学的な力で曲げることが可能で力学的な力の有無によって可逆的に形態が変化する。
この結晶は,写真では一様に光っているように見えるが,多光子顕微鏡測定を行なうと,強い発光が見られているのは,結晶の表面の部分だけであることが分かった。
この結果は,他の発光性結晶も,この結晶と同様に結晶の不均一さが発光の重要な役割を担っていることがあるという重要な科学的知見を示している。
また,曲げた際の多光子顕微鏡像から結晶を曲げると,結晶が伸びる箇所で発光が強く生じることが分かり,写真では,一様に見えた発光が,多光子顕微鏡を通してみると,結晶が伸びている箇所で強く発光していることを世界で初めて捉えることが出来た。
この実験事実は,全ての他の結晶性材料においても,結晶中の不均一な変化により全体の性質が変化しているように見える可能性を示唆しているという。
研究グループは,今後,多光子顕微鏡技術を通して,固体材料,分子デバイスの評価が進んでいき,これまで未解明であった機能が明らかになっていくことが期待できるとしている。