阪大,空間光イジングマシンの新しい計算モデル提案

大阪大学の研究グループは,光を用いて組合せ最適化問題を解く空間光イジングマシンの適用範囲を飛躍的に拡大する,新しい計算モデルを提案した(ニュースリリース)。

イジングマシンとは,イジング問題と呼ばれる組合せ最適化問題を高速に解く専用ハードウェア。多くの重要な組合せ最適化問題がイジング問題として表現できることから,量子アニーリング等の様々な原理に基づくイジングマシンの研究開発が盛んに行なわれている。

2019年に提案された空間光イジングマシンは,空間光変調を用いて組合せ最適化問題を解く。光の空間並列性を活用することにより,計算の1反復にかかる時間が原理的には変数の数によらず一定となり,1万変数以上の大規模なイジング問題であっても高速・高効率に扱えることから,優れたスケーラビリティを持つイジングマシンとして期待されている。

また,光を用いるため結線が不要であり,全結合の問題が容易に扱えることも優れた特長。しかし,これまでは扱えるイジング問題に厳しい制約があり,実問題への応用において大きな課題となっていた。

研究グループは,空間光イジングマシンのハードウェア実装を変えることなく,任意のイジング問題を扱うことができる新しい計算モデルを提案した。この計算モデルを用いると,光の特性により大規模で全結合のイジング問題が効率的に扱えるだけでなく,特に低ランク性を持つイジング問題に対して高効率であるという独自の特徴を持つことが明らかになった。

実際に,これまで空間光イジングマシンが扱えなかった整数重みナップサック問題を低ランクのイジング問題として定式化し,最適化計算が可能であることを実証した。また,この計算モデルにより統計的学習を行なうための具体的な学習則を導出し,手書き数字画像データの低ランク学習が行なえることを示した。

これらの研究成果は,大規模・全結合・低ランクの性質を持つ組合せ最適化と統計的学習の実問題に対して特に優れた性能を持つ空間光イジングマシンの実応用への道筋を示すもの。

研究グループは,この計算モデルにより空間光イジングマシンの実応用が進展すれば,大規模な組合せ最適化と統計的学習の実問題に対する計算の高速化や消費電力の低減となるとしている。

また,複雑化・大規模化する社会課題への応用が進展すれば,社会システムのさらなるスマート化,たとえばエネルギー利用の効率化やCO2排出量の低減によるカーボンニュートラル実現への貢献等も期待されるとしている。

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