東大,大規模集積回路に適した不揮発光移相器を実証

著者: 梅村 舞香

東京大学の研究グループは,強誘電体二酸化ハフニウムジルコニウムに外部電界を印加することで生じる不揮発的屈折率変調を世界で初めて観測することに成功した(ニュースリリース)。

プログラミング可能な光回路を実現するためには,多数の光移相器を回路上に集積することが求められる。特に待機電力をゼロにできる不揮発光移相器が望まれ,強誘電体であるチタン酸バリウムを用いた不揮発光移相器が研究されてきたが,チタン酸バリウムは大規模シリコン光回路への適用に課題があった。

そのため,2011年に強誘電体となることが報告されて以降,酸化ハフニウムジルコニウムに注目が集まっているが,酸化ハフニウムジルコニウム中の非線形光学効果などについての研究報告は少なく,その光学特性や光デバイス応用についてはまだ十分に研究が行なわれていなかった。

高誘電率絶縁材料である酸化ハフニウムはトランジスタのゲート絶縁膜としてすでに実用化されていることから,酸化ハフニウムジルコニウムも大規模集積回路向け半導体工場で容易に取り扱うことができる。

このことから,酸化ハフニウムジルコニウムの非線形光学特性を明らかにして,プログラミング可能な光回路への応用可能性を明らかにすることが強く望まれていた。

研究グループは,熱酸化シリコン基板上に窒化シリコンを堆積して矩形状に加工した光導波路上に,加熱処理により強誘電化した二酸化ハフニウムジルコニウム層を合計30nm積層した構造を作製した。

強誘電化を容易にするため1nmのアルミナを挿入し,窒化シリコン光導波路の両脇に堆積した電極に電圧を印加することで,二酸化ハフニウムジルコニウムに外部電界を印加することができる。

この光導波路に,印加電圧を0Vから210Vに増やしながら屈折率変化を測定した結果,二酸化ハフニウムジルコニウムを堆積した素子では,印加電圧が100Vを越えると,大きな屈折率変化が生じた。その後,印加電圧を0Vに戻しても,屈折率変化が維持される不揮発的動作を得た。

また,外部電界印加前後の二酸化ハフニウムジルコニウムの結晶相や結晶方位を詳細に分析することで,不揮発的屈折率変調は二酸化ハフニウムジルコニウム中の自発分極の変化が要因であることを解明した。

さらに,窒化シリコン光導波路上に二酸化ハフニウムジルコニウムを堆積した光移相器を作製し,電圧印加により不揮発的に光位相を変調することにも成功した。

研究グループは,強誘電体二酸化ハフニウムジルコニウム中の非線形光学効果のさらなる解明と,種々の光デバイスへの応用が進むと成果だとしている。

キーワード:

関連記事

  • 東北大ら,テラヘルツで量子物質の巨大分極を誘発

    東北大学,東京科学大学,岡山大学は,電子強誘電体と呼ばれる量子物質の一種にテラヘルツ波を照射することで,バルク強誘電体としては過去最大の極めて大きな分極の変化を示すことを発見した(ニュースリリース)。 強誘電体はメモリや […]

    2025.09.12
  • 東大ら,光導波路多重により光行列演算回路を実現

    東京大学と産業技術総合研究所は,次世代AIアクセラレータに向けて行列-ベクトル乗算を加速できる新しい光プロセッサを開発した(ニュースリリース)。 AI 技術では,従来よりも桁違いに多くて複雑な演算が必要とされることから, […]

    2025.06.10
  • 東大,大規模並列演算ができる光コンピューティングを提案

    東大,大規模並列演算ができる光コンピューティングを提案

    東京大学の研究グループは,大規模並列論理演算が光の速度で実行可能な全光コンピューティングの新手法「Diffraction Casting」を提案した(ニュースリリース)。 ポストムーア時代を見据え,光の持つ多様な物理的性 […]

    2024.10.04
  • 名大ら,多層ペロブスカイトを合成し強誘電体と確認

    名古屋大学,名古屋工業大学,大阪公立大学は,分子レベルの積木細工による新たな手法で,多層ペロブスカイトの合成に初めて成功し,これらが強誘電体であることを明らかにした(ニュースリリース)。 ペロブスカイト酸化物は,優れた強 […]

    2024.09.05
  • 理研,電場で駆動する液晶性の強誘電体を発見

    理化学研究所(理研)は,強誘電性ネマチックと呼ばれる新しい液晶性の強誘電体において,交流電場により駆動されるアクティブな状態を発見した(ニュースリリース)。 近年発見された強誘電性ネマチックは,固体にはない高い流動性・柔 […]

    2024.08.27
  • 東大,シリコンウエハー上に強誘電体結晶薄膜を作製

    東京大学の研究グループは,バッファ層とスピンコート法を組み合わせることにより,Si基板上に大面積の強誘電体結晶薄膜を作製するための新たな手法を開発した(ニュースリリース)。 これまでの強誘電体の研究において,薄膜作製手法 […]

    2024.07.19
  • 九大,Beyond5Gに向けた超高速光データ伝送を加速

    九州大学の研究グループは,強誘電体(PLZT)薄膜をシリコン基板上に結晶膜を形成させる方法を見出し,超高速光変調器を作製することに成功した(ニュースリリース)。 光通信技術の高速化に対する要求は近年ますます加速し,イーサ […]

    2024.07.17
  • 名大ら,新奇な誘電率増強効果を発見

    名古屋大学,慶應義塾大学,熊本大学,東京工業大学は,チタン石型酸化物における新しい反強誘電体と,ドメイン壁に起因する新奇な誘電率増強効果を発見した(ニュースリリース)。 誘電体は,コンデンサや周波数フィルタ,不揮発性メモ […]

    2024.06.25
  • オプトキャリア