北大ら,光で地中の有機物など推定する手法を開発

北海道大学,信州大学,九州大学,国立環境研究所は,野外の森林土壌中の有機物組成とそれが微生物に分解されることによって生じるCO2の放出速度を非破壊的かつ迅速に推定する新しい観測法を開発した(ニュースリリース)。

一般に,野外の土壌有機物組成の調査では,土壌の採取と室内分析が必要で,CO2放出速度の調査ではガス分析計が使用されてきた。しかし,この方法には現場の土壌環境を攪乱してしまう,調査地点数を増やしにくい,時間がかかるといった課題があった。

研究グループは,推定手法を確立するために,落葉広葉樹林と人工林において,土壌中の有機物組成が異なる13樹種の林床の土壌を選び,その土壌の特性とCO2放出速度を室内で測定した。

その際,新たな手法として短波長赤外領域(波長:1000-2500nm)の反射の強さを波長ごとに分けて計測する分光反射率計測を用いた。従来は,乾燥試料のみを対象に行なわれる分光反射率計測だが,今回は水分条件を変化させながら計測することで,野外条件での適用を目指した。

室内の分析結果をもとに,分光反射率から有機物組成と水分,それらと関係するCO2放出速度を推定するモデル式を作成した。そして,野外において,地中に挿した光ファイバーを使って分光反射率を深さごとに計測し,モデル式に当てはめることで,野外での有機物組成とCO2放出速度を推定した。実際のCO2放出速度もガス分析計で同時計測し,両者の対応関係を検証した。

開発した推定モデル式では,土壌中の有機物組成や水分量,容積重といった土壌特性を,相対誤差23~32%で推定できた。地表面の落葉,その下の有機物層,さらに深い鉱物層といった三つの土壌層それぞれで実測値との対応関係が得られた。

野外検証では,土壌特性が地中の深さで大きく変わることや樹種によって地中の有機物量が異なることが検出された。深さ別に計測した分光反射率をもとに計算したCO2放出速度と,従来のガス分析計による実測値を比較したところ,両者に正の対応関係が認められ,提案手法は29.8%の相対誤差で微生物によるCO2放出速度が推定できることが判明した。

なお,養分環境が大きく異なる樹種では,推定モデルの当てはまりが悪くなるという課題も示唆されたが,野外において,大きな攪乱をせずに1地点あたりわずか数分の計測で土壌の特性やCO2の放出速度を同時推定する手法は世界初だとする。

研究グループは,農地や施設園芸といった一定環境内での土壌養分の監視・管理などにも応用できるとしている。

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