順天堂大学の研究グループは,抗原抗体反応およびアフィニティ標識法を高精度光線-電子相関顕微鏡法に応用することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
樹脂包埋試料から,100nmの超薄切片を作製し,同一の試料から蛍光顕微鏡による蛍光シグナル情報と電子顕微鏡による超微形態情報を相関させることができる高精度光線-電子相関顕微鏡法を行なうには,組換えタンパク質を細胞に発現させる必要がある。このため,高精度光線-電子相関顕微鏡法は,遺伝子操作などが可能な細胞・動物にしか応用できなかった。
研究グループは,抗原抗体反応やアフィニティ標識法を高精度光線-電子相関顕微鏡法に適用し,組換タンパク質を使うことなく,ミトコンドリアやゴルジ体といったオルガネラを高精度光線-電子相関顕微鏡法による超微形態解析を遂行することを目指した。
まず高精度光線-電子相関顕微鏡法の試料作製に必要なエポン樹脂包埋処理後に蛍光を発することができる蛍光色素のスクリーニングを行なった。次に,電子顕微鏡に用いられる生物材料の固定条件において,抗原抗体反応が可能かどうかを検討した。
通常,電子顕微鏡解析を行なうためには,生物材料を,抗原抗体反応を著しく阻害するグルタルアルデヒド存在下で固定する必要があるが,グルタルアルデヒドの濃度を低くする固定液組成により,超微形態を保持しながら,抗原抗体反応が可能であることを見出した。赤色蛍光色素と抗原抗体反応条件を用いることにより,ミトコンドリア,ゴルジ体の高精度光線-電子相関顕微鏡法が可能となった。
次に抗原抗体反応とアフィニティ標識法を用いて,赤色及び近赤外蛍光色素を用いて2色の高精度光線-電子相関顕微鏡法を行なった。抗原抗体反応でミトコンドリアを検出し,神経組織や悪性がん細胞染色に用いられる小麦胚芽レクチンを用いて,小麦胚芽レクチンが認識する細胞内構造体を検出し,2色の高精度光線-電子相関顕微鏡法により,小麦胚芽レクチンが多胞体という特殊な構造を認識することを明らかにした。
さらに,この技術を3次元超微形態解析に応用できるかどうかを検討したところ,高精度光線-電子相関顕微鏡法により,ミトコンドリアの蛍光シグナルと電子顕微鏡のボリューム(3次元)イメージング像との高精度な光線-電子相関顕微鏡解析が可能であることを示した。
研究グループは,この成果により組換えタンパク質を使う必要がなく,抗原抗体反応を応用できることから,病態マウスモデルや神経変性疾患を含む多くのヒト病理組織における形態解析への応用が期待されるとしている。